ヘチャンの昔話 後 ページ15
ヘチャン視点
僕たちの記念すべき契約更新を目の前にして、一度でもNCTという冠を被った事のある男達が狭い会議室に押し込まれた。
どう考えても定員オーバーだ。もう既に怠い。
初代マンネの癖に最後に入って来たチョンロとチソンが「わっ、もう皆いるじゃん」「だから早く行こうって言ったのに」と騒々しく言い合った後にすぐ、一番偉いマネージャーさんと会社の上役が入ってくる。
一瞬で静かになった会議室にAヌナはいない。
『ああそうか、あの話か』と、天井の変なダサい柄を見上げながら聞いていれば、偉い人達は言いたい事だけ言い残してさっさと出て行ってしまった。
話す言葉は機械的で、事務的で、何の名残惜しさも感じさせないところは立派だと思う。もちろん皮肉だ。
会議室のドアが閉まり、沈黙が続き、スピーカーの電源が入れっぱなしだったのか正午を知らせる間抜けな会社のチャイム音が響く。
そして誰かが声を上げた瞬間、部屋の中のざわめきは一気に大きくなった。
「わっ、本当に出てる」
「もうニュース来てんの？」
「今日までどうなるかと思ってたけどさすがにダメだったかぁ」
「オレが泣き喚いて止めても無理だったんだぞ」
「ねえ、ヌナと連絡通じないんだけど誰か電話かけてたりは」
「ユタヒョン、Aは？」
「今日来なかったけどアイツ今どこにいるの？」
情報はどこにも洩れなかった。
話を聞いた人間は皆、言葉にも出さず、誰にも言わなかったんだろう。偉いと思う。
ゴシップ記者にすら情報が回らず、いきなり会社からAヌナの脱退が発表されたのなら、世間とネットの反応には触れる事すら恐ろしい。
そういえばヌナはあの日、一人ひとりに挨拶をするんだと僕に言った。
『お互い解っていても、話題に出さないでほしい』と言われたし、きっと全員そう言われているだろう。
そして全員がヌナの願いを固く守ったんだ。えらいえらい。
だからこそ、こうやって情報が発進された今、皆それぞれ好き勝手な事を言ってるわけで。
「本当だ。繋がんないね」
「ちょっと待った、アカウント消えてないか？」
「あれ、十分前までやり取りしてたのに」
「ヒョン！電話番号無いって言われるんだけどどういうこと？」
「ユタ、これって」
少し離れた所で皆に詰め寄られているユタヒョンは「あ〜」とか「う〜ん」とか曖昧に言葉を濁して明言を避けている。
その光景が、ちょっとした宗教画のようにも見えた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1263人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
さっちゃん(プロフ) - 作品読ませていただきました。途中胸が苦しくなるほど、とても良い作品でハッピーエンドで終わり良かったです。またトキメキと良い意味での胸の苦しさを求めて何度も読もうと思います。素敵な作品をありがとうございます。 (9月26日 22時) (
レス) @page49 id: 585b81384e (このIDを非表示/違反報告)
ちるぬな(プロフ) - 初めてこの作品を読ませていただきました。言葉遣いからストーリー構成まで、ほんとうに好きです。素敵なお話ありがとうございます。これからまた何十回と読ませて頂きます^_^ (9月20日 21時) (レス) @page49 id: 7c0a70e250 (このIDを非表示/違反報告)
せの(プロフ) - はるかさん» 私こそすみません…！作品の方また楽しんでいただければ幸いです！ (2021年8月31日 11時) (レス) id: 9dd39ae13b (このIDを非表示/違反報告)
はるか(プロフ) - せのさん» そうだったんですね！失礼いたしました...！ (2021年8月30日 21時) (レス) id: ef764b671d (このIDを非表示/違反報告)
せの(プロフ) - はるかさん» こちらこそ読んでくれてありがとうございます〜〜！！Twitterはしてないので教えられず……！ (2021年8月30日 16時) (レス) id: 01bd2f8507 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：せの
| 作成日時：2021年8月2日 0時
