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恋に落ちると人間は狂ってしまうと聞く。
ああ、そうなのかもしれない。
確かにAヌナは狂ってしまったんだろう。
隠して、誤魔化して、嘘をつけばいいのに、そうしない所がこの人らしい。
想像通りだ。想像なんかしたくもなかったけど。
これが悪夢ならよっぽどいいのに。心からそう思う。
「Aヌナから好きになってもらえた人は幸せだね」
「残念だけどそんな事はないよ。私はこれから、嫌われるために生きるんだから」
「……驚いた。もしかして片思いなの？」
「うん。だから余計に思う。どうしてこんな、馬鹿なことしか出来ないのかなって」
ヌナはまた困ったような顔をして、僕はじりっと焦げ付くような思いをした。
それはほんの少し、怒りに似ているような気がする。
そんな顔をするのなら、それならばヌナがここに居てくれればいいじゃないか。
言っちゃダメだろうか。
意志の固いAヌナの事だ。何を言われても出て行きそうだけど、どうしても引き留めてしまいたい。
暗に言うなと言われたけれど、Aヌナがただ患っただけの、まだ片一方の恋だとしたら、僕に免じてどうにかしてくれないかと思う。
ヌナは訳の分からない人間に惑わされないで目を覚ますべきだ。
この人の居るべき場所はどう考えても僕たちの隣で、せいぜいキラキラと光っているのがお似合いなんだ。
胸が熱く、焼けただれているのかと思った。
恋をしているのは僕じゃないのに、まるでAヌナから飛び火したような熱が上がってきて、目の奥がじりじりとひりついていく。
渇いた喉がくっつくから、唾を飲んで無理やりこじ開ける。
「ヌナが、Aヌナが苦しく思うなら、僕は手放さないといけないんじゃないかと思う。それがどんなに綺麗で、輝いていても」
それに続くはずだった『だから行かないで』という言葉は言わなかった。言えなかった。
ヌナが首を振って、無理に笑顔を作る。
ああ、ダメだ。
ダメなんだ。
決心は思っていたよりもずっと、理解不能なくらいに強固らしい。
「そうしなきゃいけないのに」
「ヌナ、」
「叶えるつもりはないし、叶わなくて良いのに、どうして上手く手放してしまえないんだろうね」
笑っているようで、泣いているようで、触れる事も許されないその顔はやっぱりとても綺麗だった。
その少し後、契約を更新せずにAヌナは本当に会社を辞めた。
(ヘチャンの昔話 前・完)
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さっちゃん(プロフ) - 作品読ませていただきました。途中胸が苦しくなるほど、とても良い作品でハッピーエンドで終わり良かったです。またトキメキと良い意味での胸の苦しさを求めて何度も読もうと思います。素敵な作品をありがとうございます。 (9月26日 22時) (
レス) @page49 id: 585b81384e (このIDを非表示/違反報告)
ちるぬな(プロフ) - 初めてこの作品を読ませていただきました。言葉遣いからストーリー構成まで、ほんとうに好きです。素敵なお話ありがとうございます。これからまた何十回と読ませて頂きます^_^ (9月20日 21時) (レス) @page49 id: 7c0a70e250 (このIDを非表示/違反報告)
せの(プロフ) - はるかさん» 私こそすみません…！作品の方また楽しんでいただければ幸いです！ (2021年8月31日 11時) (レス) id: 9dd39ae13b (このIDを非表示/違反報告)
はるか(プロフ) - せのさん» そうだったんですね！失礼いたしました...！ (2021年8月30日 21時) (レス) id: ef764b671d (このIDを非表示/違反報告)
せの(プロフ) - はるかさん» こちらこそ読んでくれてありがとうございます〜〜！！Twitterはしてないので教えられず……！ (2021年8月30日 16時) (レス) id: 01bd2f8507 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：せの
| 作成日時：2021年8月2日 0時
