彼女のあだ名の話 ページ47
「そう言えば、何で私の事<ひなちゃん>って呼ぶの?」
繋いでいる彼女の手を弄びながら、頭にふと浮かんだ質問をする。
「え、何でって…。響きが可愛いから…かも。」
戸惑いながら返してくれる凜。
質問の意図、ちゃんと伝わってなかったみたい。
今度は提案をぶつけてみる。
「ねえ、今だけで良いから私の事を呼び捨てで呼んでみてよ。」
彼女の戸惑いの表情に赤みが増す。
やがて口をパクパクさせながらまごついて、声を絞り出した。
「あぅ、ぁ…。えっと…、ひな…た…?」
「ふふ。なーに、凜。」
「ひなた…、ひなたっ…!」
言葉を覚えた小さな子どもの様に、何度も私の名前を唱える。
「ひなた、可愛い。大好き。」
「今の凜も可愛いよ。」
愛嬌しか無い笑顔を見せながら、控えめに言葉を紡ぐ彼女。
「…やっぱり戻して良い?何か、恥ずかしい…。」
「戻しちゃうの?可愛かったのに。」
わざわざ恋人繋ぎにして、今の彼女と同じ程度の声のトーンで言葉を返す。
「だって恥ずかしいんだもん。
初めて呼び捨てで呼んだから、変に緊張しちゃって…。」
「そっか。じゃあ、凜がしたくなった時にそう呼んで挑発してきてよ。」
「してる途中で戻っちゃいそう。
でも、私達だけの合図みたいで良いかも。」
再度顔を赤らめる彼女が体を密着させてきた。
「今は出来ないけど、くっつくだけなら良いよね。」
「良いよ、凜。」
「ふふ。暖かいよ、ひなた。」
もう一度、彼女が私の名前を呼んだ。
「…思い出したよ、ひなちゃん。
私がひなちゃんって呼ぶの。」
「何?」
「えっとね、私だけのひなちゃんの呼び方が欲しかったの。
他の人からは呼び捨てだけど、この呼び方は私だけなんだよね?」
「うん、凜だけだよ。
それに、可愛いのは響きだけじゃないよ。」
彼女を抱き寄せ、耳元で囁く。
「可愛い凜が呼んでくれるから、余計に可愛く聞こえるの。」
「…そっか。じゃあこれからもいっぱいひなちゃんって呼ぶね。」
照れながらそう囁き返してくる凜の首元に
口付けを落とすと、彼女は私の首筋に両腕を回した。
「子どもっぽいって言われるかも知れないけど、別に良いの。
ひなちゃんといられるなら、私は一生子どもで良い。」
「ずっとそうは無理だよ。
だから、私が凜を大人にしてあげる。
一緒に大人になろうよ。」
元から美人な顔立ちに大人っぽい振る舞いが加わって、
なのに私の事はあどけなさの残るあだ名で呼んで。
ギャップが良いのは同性でも一緒なんだなと、心の中でそっと思った。
重い足で門をくぐれば ※苛め描写有り→←初めてでただ一人のお姫様
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