ある雨の日 ページ20
「ひなちゃん…!」
「ふふ、傘持ってくるの忘れちゃった。」
上着を脱いだひなちゃんの髪や鞄は、急な雨に濡れていた。
パジャマと下着を手渡し、シャワーに行く事を勧める。
その間に私は、彼女の荷物を私の部屋の分かる所に置いた。
ハンガーに掛けられている上着を、ばさりと広げてみる。
厚手のコートの広い範囲が雨で濡れてしまっていた。
私は思わず、その内側に顔を埋めた。
……ひなちゃんの匂いがする。
「…ほんの少しだけなら、バレないよね。」
小さく呟き、匂いと温もりが残るコートに袖を通した。
濡れている筈なのに暖かくて、心地良く感じる。
何か、抱き締められてるみたい。
「…ふふ、ひなちゃん大好き…。」
ガチャリ。
ドアが空いて、その方向を見る。
コートの持ち主であるひなちゃんが驚いた顔をして私を見ていた。
「あ、あの、これは、その…。」
あたふたしている私に歩み寄り、にこりと微笑んだ。
髪はまだ濡れているが、雨からのものでは無いだろう。
「濡れてるとは言え、暖かい部屋でそれ着てたら暑いでしょ。」
「…暖かいよ。だってひなちゃんのコートだもん。」
「良く分かんないよ。」
言いながら、コートを脱がせてきた。
名残惜しく思いながらも、されるがままになる。
「着てきた服はどうしたの?」
「体操着袋に入れたよ。」
「私の部屋に干しておいても良かったのに。」
「そんな事したら凜の部屋が雨水でびしょびしょになるでしょ。」
コートをハンガーに掛け直した彼女が、こちらに戻ってくる。
二人でベッドの上に腰掛け、互いの体に隣り合う側の手を回す。
「雨、止まないね。」
「急に降ってきたけど、夕立ちにしては長いよね。」
「お家、帰らなくて良いの?」
「良いの。あんな家になんか帰りたくない。
それに、今は凜といる時間の方が大事だし。」
「…ごめんね。悪い事訊いちゃった。」
「凜は悪くないよ。
凜との関係を許してくれない親の方が悪い位だよ。」
口調こそ優しいが、その声は震えていた。
「何で皆、分かってくれないんだろうね。
私達は女の子が好きってだけで、悪い事なんか何一つしてないのに。
まるで私達みたいな人が悪い奴みたいな言い方して。」
「ひなちゃん…?」
「ああ、ごめんね。きっと雨が降ってるから、
こんな事ばっかり考えるんだ。」
いつもの優しい笑顔を見せてそう言うひなちゃん。
凭れ掛かると、一層強く抱き締めてくれた。
今だけは、もう少しだけ降っていて欲しい。
少しでも長く、彼女を感じていたいから。
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