【逆ハー注意】男装腐女子の魔法科男子校潜入記【2】

94ねむ ページ45

「ひ、卑怯者っ！」
「えっ？ 悪い聞こえなかった」

にこ、と笑い返すと、メイド服のチワワは押し黙る。
地上で転ばしただけだし、怪我をする前にアルミラージが服を掴んで引き上げた。相手が負ったダメージは転びそうになった恐怖と、尻もちをついた痛みだけだろう。
こちとらいまだにびしょ濡れだわ風邪ひきそうだわ危うく溺れ死ぬとこだったんだぞ。まだ大人の対応でしょ、私のほうが。

もちろん言い訳だけど。

「A大人げなーい！」
「いいぞもっとやれー！」
「狙ったように野次入れてくるなぁ双子！」

走りながら私は叫ぶ。後ろからさっきのメイドチワワが追いかけてくるけどいかんせんリーチで追いつくことができない。
このまま私が一位キープできるか、とゴールテープを目前にして何とか安堵する。

と、その時、視界の端に何かがうつった。

「……へ」

それは、まるでひらめくカーテンのように、穏やかで、一見気にも留めないような、
だけど同時にふと思わず振り向いてしまうような。無意識に意識を奪われてしまうような。

先ほど怪我を治癒してあげたナース服のチワワくんは、わずか一瞬のうちの私を追い越し、そしてゴールテープを切った。
そのスピードは常人のなせる業ではない。まるで風を切るような、そんな動き。

「ゴーーール！ 一位に青組、二位に赤組、三位に白組です！」
「っ――はぁああっ……疲れたぁー！」

体力はそんじょそこらの女子よりあるとはいえ、全力疾走なんてそうする機会はない。
普段動かさない筋肉も思い切り使ったせいで、どっと疲労が背後から襲い来る突風のように全身を襲う。

思わず地面に座り込んだが、筋肉に負担をかけまいと立ち直りその場で軽く運動をした。

「あっあの、さっきは、ありがとうございました！」
「お、ナース服の。いえいえ、お疲れ様。君速いね」
「あ、僕、ジョブが盗賊で……」
「シーフか、成程ね」

シーフといえば、風紀副委員長の和先輩と同じジョブだ。
彼らの特徴はそのスピード。確かに得意魔法は加速や瞬足、ひたすらスピード系。
シーフに勝てっこないなぁ、さすがに。

「あ、あの僕、ディーンって言います！」
「ディーンくん。先輩？」
「いえ、同じ一年です！」
「そっか。俺は――」
「Aくん。たぶんこの学園で知らない人はいないと思います」
「だよねぇ」

生徒会に並ぶ人気者って言ったら私だろ。あ、私も生徒会だった。自覚ゼロ。

「そ、それで、あの」
「「Aー！」」
「あ、双子」

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