【逆ハー注意】男装腐女子の魔法科男子校潜入記【2】

85ねむ ページ36

ぎゃー！ アーチー様ぁああ！
聞き取れる悲鳴は大体こんなところだろうか。
ブーイングと今にも気絶しそうなくらい壮絶な悲鳴のど真ん中、渦中にいる私はといえば、念仏を唱えていた。多分明日の今頃には呪い殺されているだろう。念仏といってもなんまいだーしかわかんないんだけど。

「り、リデル……こういうのすごく困る……」
「……ごめん。A、借りに行くって、約束した……」
「そんな約束守んなくていいの！」
「あ、あのー……アーチー様、大切な人、というのは……」

いまだに悲鳴と怒号と私への悪口が飛び交うグラウンドで、マイクを通した放送委員の声が響く。
その言葉に一気に騒ぎは収まり、誰もが食い入るようにグラウンドへ集中する。視線って人を殺せるんだなぁって思うくらい痛い。心が。いろんなところが。涙出てきそう。

「……A……俺の、大切な、人」
「といいますと？」

また騒ぎが始まる前にすかさず放送委員が説明を求める。

「……妹、みたい。面倒、見るの、好き」
「……」

今度こそ放送委員は言葉をなくす。
いやまぁ恋愛感情じゃないことは知っていたが、それでも誤解を招きそうだ。いやもう招いてる。手遅れ。私の人生も手遅れ。くそ。

「っていうかリデル、弟！ 弟な！」
「……弟」

いやまぁ明日の今頃刺されてるだろうから、女ってばれても支障ないんだろうけどさ。
両手で顔を覆っていると、リデルがそのまま喋り続けた。

「A、頑張り屋……庶務、任命、したの、俺たち。文句言わず、すごく仕事する。俺たちの邪魔、しない。欲しい時に飲み物、淹れてくれる……おいしい。生徒会室、空気、明るくなった。A……俺たちの、顔、家、興味、ないと思う……だから大切。俺を見て、くれる。リデル家、じゃなくて、俺を見てくれる。今、までの庶務、違う。A、特別。だから、Aの邪魔、いやだ」
「……リデ、ル」

顔を覆っていた手がするりと落ちて行き場をなくし、体の横にだらりとぶら下がる。
そんな風に思ってくれていたのか。雲がかかったかのように思考がうまくいかない。呆然としすぎて勝手に開く口も気にならない。
我武者羅に頑張った。動機はとても邪で、そんな風に言われる筋合いはない。

それでも、やっぱり、嬉しいじゃないか。

こうやって、認められて。好かれて。
本当は制裁だって痛かった。我慢できるけど、痛みを感じないわけでもない。
あちこち刺さる視線や悪口が気持ちいいわけもない。

嬉しい、じゃないか。

86ねむ→←84ねむ

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す