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「こっちに戻ったら、一日も経っていなかったんだ。こっちの時計は止まっていたんだと思う。眠っている間に行って戻ってきたから、夢だったんじゃないかって不安になって……、でも、このロケットがあったから、夢じゃないってわかった」
零くんが服の下からロケットを取り出して見せてくれる。中の写真は変わらず、強いて言えば少し黄ばんだくらいか。大切にしていてくれたことがわかる。
「十五年間、ずっと捜してたんだ……」
零くんの声は震えていた。
今までずっと我慢してきたのであろう彼に泣いてほしくて、背に回した手で彼の背中をぽんぽんと叩く。ゆっくりリズムを刻んでいると、しばらくしてつー、と彼の頬に涙が伝った。
彼の肩に顎を乗せて、あたしもね、と返す。
「あたしもね、あれからずっと捜してたの。でも世界が違ったからさ、全然見つからなくて。もっと早く来れたらよかった。……ごめん」
「Aが謝ることじゃないだろ? 僕もすぐに会いに行けなくて、ごめん」
お互いに精一杯の力でぎゅうぎゅうと抱きしめ合った。同窓会のときとは違い、彼の身体もあたしの身体もあたたかかったけれど、寂しさで心が凍っていたのはおんなじだ。お互いの熱で、お互いの心の氷が溶かされていく。
あたしの頬にもあついものが伝った。自覚してしまうと抑えきれなくなるもので、次から次へと涙が零れていく。彼の胸板が涙で濡れて、あたしの肩も彼の涙で濡れた。
「寂しかった……っ! きゅうにいなくなりやがって、もうばかぁああ……!!」
「僕だって寂しかったさ! だってA、隣で寝てたはずなのにいなくなったからっ、僕がどれだけ怖かったかわからないだろ……!」
「わかるよ!」
「いや絶対にわからない!」
「わかるってばっ……!」
厚くなった零くんの胸板をぽかぽか叩く。ちょっと本気で叩いているのに彼はびくともしない。あれからずっと、警察官になるために鍛え上げられてきた身体には、あたしなんかのパンチは効かないのだ。
その事実が誇らしくて、彼の胸板にぽすりと頭を預ける。
「……会えてうれしい」
「……僕も、すごくうれしい」
「ロケット、十五年も大事にしてくれてたんだね。うれしいよ」
「大事にするって言ったじゃないか」
「十五年も前のことなのによく覚えてるね」
「あの二か月のことは鮮明に覚えてる」
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えりんぎ苺(プロフ) - よるさん» レス遅れて申し訳ありません、気づきませんでした……! 主人公をできるだけフツーの女の子にしたかったので、それが伝わって嬉しいです。十四才零くんとのやり取り書き足りないんですよね(笑) 完結させて頂きありがとうございます。コメントありがとうございました! (2020年6月14日 18時) (レス) id: b6e0dc5b12 (このIDを非表示/違反報告)
よる - ちょっと文字数が足りなかったので…完結お疲れ様でした! (2020年6月5日 1時) (レス) id: e10e6d9ba2 (このIDを非表示/違反報告)
よる - めっちゃ面白かったです!とくに主人公が凄く個性が強いわけでもなく、普通の人って感じがしてとても共感するし、読みやすかったです!(語彙力少なめなので伝わってると嬉しいです) 14歳の零くんと主人公のやりとりが鮮明にわかり微笑ましい気持ちになりました笑 (2020年6月5日 1時) (レス) id: e10e6d9ba2 (このIDを非表示/違反報告)
えりんぎ苺(プロフ) - ゆるり。さん» 寂しく思ってくださるなんて……! 繊細で優しい書き方だなんて初めて言われました。すごく嬉しいです。こちらこそご愛読いただきありがとうございました。ぜひぜひ次もお付き合いください。コメントありがとうございました! (2020年5月31日 8時) (レス) id: b6e0dc5b12 (このIDを非表示/違反報告)
ゆるり。(プロフ) - 完結おめでとうございます!この作品が更新されるのが楽しみで楽しみで、完結してしまったのが寂しいくらいです…。繊細で優しい書き方で、とてもわくわくしました。素敵な作品をありがとうございました!次も付いていきます! (2020年5月31日 7時) (レス) id: f1881e43ef (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:えりんぎ苺 | 作成日時:2020年5月25日 21時