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走るのをやめてから二分経ってもまだ整わない息を恨めしく思う。こうなるってわかっていたらジョギングしていたのになぁ……所詮人間はないものねだりの生き物だ。
膝に手をつきぜえはあと息を整えていれば、申し訳なさそうな顔をしたコナンくんが背中をさすってくれた。
「ごめんね、Aお姉さん。まさかそんなに体力ないとは思わなくて……」
「いや、いいんだよ、はぁ、気にしゴホゴホッ……ないで」
「……歩こうか」
息を整えるには止まってるより歩いたほうがいいんだよ、と言いながら歩き始めるコナンくん。さすが探偵、博識だ。すごいね、と褒めればへへへと笑った。
コナンくんは歩いている間、いろいろなことを教えてくれた。米花町のことや、学校のことも。今度音楽の時間に歌のテストがあって、という話になったとき、コナンくんは今までで一番嫌そうな顔をした。
「そういえばAお姉さん、ポアロに行ったことがあるの?」
「ないよ。なんで?」
「だってAお姉さん、米花町に来たばかりなのにポアロのこと知ってたから、不思議に思って。行ったことあるのかなーって思ったんだ!」
「ああ……。ポアロを知ってる理由は、店員さんと仲良しだからかな」
零くんを「知り合い」と表現するのが嫌で、「仲良し」という言葉を使った。コナンくんは「ふーん!」と上機嫌に相槌を打つ。
「それって、梓さんのこと? それとも安室さんのこと?」
「さあどっちでしょう?」
「えーっ、気になる〜〜!」
「どうせすぐわかるじゃ〜〜ん」
コナンくんはあたしの対応にむうう、と頬を膨らませる。こういうことも計算しているのだろうか……ダメだ、コナンくんの演技力が高すぎてわからない。工藤新一だと知らなかったら疑いさえしなかっただろう。
工藤新一ってただの高校生にしちゃハイスペックすぎるよね……。ハワイと親父の組み合わせはもはやご都合主義。ハワイの親父はなんでもあり。
おしゃべりをしながら歩いていると、数分でポアロの看板が見えた。……ちょっとどころじゃなく緊張する。この先に、零くんがいるんだ。
十五年前にたった二か月一緒にいただけの女を彼が覚えているとは限らない。彼の記憶力はすごいけれど、もしあたしに気づかないようだったら、どうにかして元の世界に帰る。
一度深呼吸をし、意を決してポアロに入店した。
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えりんぎ苺(プロフ) - よるさん» レス遅れて申し訳ありません、気づきませんでした……! 主人公をできるだけフツーの女の子にしたかったので、それが伝わって嬉しいです。十四才零くんとのやり取り書き足りないんですよね(笑) 完結させて頂きありがとうございます。コメントありがとうございました! (2020年6月14日 18時) (レス) id: b6e0dc5b12 (このIDを非表示/違反報告)
よる - ちょっと文字数が足りなかったので…完結お疲れ様でした! (2020年6月5日 1時) (レス) id: e10e6d9ba2 (このIDを非表示/違反報告)
よる - めっちゃ面白かったです!とくに主人公が凄く個性が強いわけでもなく、普通の人って感じがしてとても共感するし、読みやすかったです!(語彙力少なめなので伝わってると嬉しいです) 14歳の零くんと主人公のやりとりが鮮明にわかり微笑ましい気持ちになりました笑 (2020年6月5日 1時) (レス) id: e10e6d9ba2 (このIDを非表示/違反報告)
えりんぎ苺(プロフ) - ゆるり。さん» 寂しく思ってくださるなんて……! 繊細で優しい書き方だなんて初めて言われました。すごく嬉しいです。こちらこそご愛読いただきありがとうございました。ぜひぜひ次もお付き合いください。コメントありがとうございました! (2020年5月31日 8時) (レス) id: b6e0dc5b12 (このIDを非表示/違反報告)
ゆるり。(プロフ) - 完結おめでとうございます!この作品が更新されるのが楽しみで楽しみで、完結してしまったのが寂しいくらいです…。繊細で優しい書き方で、とてもわくわくしました。素敵な作品をありがとうございました!次も付いていきます! (2020年5月31日 7時) (レス) id: f1881e43ef (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:えりんぎ苺 | 作成日時:2020年5月25日 21時