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「あたしも部屋、行く」
『え、』
「部屋、行く」
「雅、お前いい加減にしろ」
ひかるさんは雅さんの細い腕を、物凄い剣幕で掴んだ。
でも雅さんはそれにも怯まない。
むしろ楽しんでいるような、そんな表情。
「いいでしょ別に。見るだけっつってんだから」
「お前、」
「あたしが行って何かまずい事でもあんの?」
「……」
「すぐ出るから、いいじゃん」
黙り込んだひかるさんを、雅さんも黙って睨み付けている。
しばらくの沈黙の後、ひかるさんが口を開いた。
「すぐに出ろよ」
「はいはい」
「A」
ひかるさんがわたしに向き合って、わたしの頭を優しく撫でた。
思わず目をギュッと瞑ってしまう。
「ちょっとだけ、いいか?」
『……うん、平気。』
だってわたしの部屋じゃないし。
そう言いかけた言葉を、無理矢理飲み込む。
「ほーら行くよ。えーっと……」
『Aです。』
「そうA!変な名前。」
『……』
雅さんと部屋に向かおうとした瞬間見たひかるさんの表情は、何だか辛そうで。
それだけで胸が苦しくなった。
部屋に入れば、案の定雅さんは黙り込んだ。
わたしのじゃない、誰かの部屋。
この部屋の持ち主を、きっと雅さんは知っているんだろう。
多分、深澤さんも。
わたしはベッドに座り、雅さんを見上げた。
『……満足ですか』
「……この部屋の持ち主、誰か知ってる?」
『……知りません』
「まぁ、言うわけないよねアイツも」
『……』
「この部屋ね…」
ーーアイツの愛してる人の部屋なんだよ。
...
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かえで(プロフ) - この小説大好きです!!!いつも更新楽しみにしてます(^^)頑張ってください☆ (2016年3月21日 22時) (レス) id: 683565b60e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さと | 作成日時:2016年3月1日 16時