「愛してない」2 (ページ49)

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「Aちゃん？」

あてもなく駅の周辺をさ迷って居るところ、誰かに声を掛けられた。

ゆっくりと振り向くと、コンビニ袋をぶら下げた深澤さんがわたしに駆け寄って来る。

咄嗟に逃げようかとも思ったけど、意味がない事に気付いてやめた。

「どうしたのこんな時間に…そんな格好で。」

言われて初めて気付いた。

ズボンに、カーキ色の薄いカーディガンを羽織っただけの格好。

寒さなんて感じなかったから。

深澤さんは自分のジャケットをわたしにくれる。

「送るから。」

『……』

ゆっくり首を振った。

目を見開いた後、深澤さんは怪訝な顔をする。

わたしは持っている小さな旅行鞄を見せた。

『……出て来た、』

「Aちゃん、」

『あそこには、もう…帰れないんです。』

昨日散々流れた涙が、またひとつ零れる。

崩れ落ちてしまいそうな足を震い立たせて、地面に顔を向けた。

ガシャ、って音がして。

気付けばわたしは深澤さんの腕の中にいた。

あったかい、腕のなか。

ひかるさんと違う男の人。

「うちに来る？」

掠れた深澤さんの声。

わたしはまた首を振る。

『行かない…』

「Aちゃん、」

『わたしの居場所は、ひかるさんのとこだけだから…』

「じゃあ、どうすんの？」

その答えを持ち合わせてない。

だって、行くとこなんてないもの。

ずっと一緒って、心のどこかで願ってたもの。

『適当に…てか、もうどこでもいいや…』

「え？」

『疲れちゃった、』

涙と一緒に崩れる身体を、深澤さんはしっかり抱き止めてくれた。

わたしはもう動く気力もなくて、そのまま大人しく深澤さんの腕のなかにいる事にした。

「ひとまず、俺んち行こう。そっからはゆっくり考えればいい」

『……』

「大丈夫。照には言わないでおくから。」

『……ごめんなさい、』

わたしって、なんて無力。

一人で生き抜く力もないなんて。