「愛してない」2 (ページ39)

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『…嬉しい、』

「……」

『凄い、嬉しい……』

「A…」

『ありがとう…』

「A、」

数回、優しく頭を撫でてくれたひかるさんは、わたしの腕を掴んで身体を引き寄せる。

温かいひかるさんの胸に寄り掛かりながら、強く思った。

この人を失いたくない。

この人を失ってしまったらわたし、どうなってしまうんだろう。

『……ご飯、食べたい。』

「や、でもこれしか作ってねぇよ」

『一緒に作りたい。』

「……」

『……ダメ？』

「……いいけど」

嬉しくて。

パッと笑えば、ひかるさんも優しく笑ってくれた。

その後一緒に作る料理と、一緒に食べた夕飯は、わたしにとってかけがえないものになった。

ーーーーーーーーーー

『あ……、』

お風呂から上がれば、ひかるさんはソファに横になっていた。

顔を覗き込めば、すやすやと眠っている。

こんな早い時間から寝るなんて珍しいけど、疲れてたのかな…なんて。

『ひかるさん、寝るなら部屋で寝ようよ～』

軽く肩を揺すり名前を呼んだが眠りが深いのか全く起きてくれない。

儚い寝顔に胸が痛む。

今、誰の夢を見てる？

わたし？深澤さん？雅さん？

それとも、さくのさん？

貴方の気持ちごと、独り占め出来たらいいのに。

『……なんて、言えないけど』

分かってる。

こんな歪んだ気持ちと、こんな曖昧な関係じゃ何も望めない事。

分かってる。

いつかきっと、逃げ出したくなる日が来る事。

…貴方が、わたしとの関係に悩んでしまう事も。

全部分かってる。

だけど、それでもそれでもってひかるさんに依存する。

溺れてる。

結局はわたし、あの頃と何ひとつも変わってなんかない。

依存し合って、お互い溺れ合って。

身動きが取れないまま過ごした翔太とのあの日々。

間違ってると頭では分かっていても、ひかるさん、優しいから。

甘えてしまう自分が、どうしようもなく情けない。

ひかるさんの寝室から毛布を何枚か取って来て、起こさないよう静かに掛けた。

綺麗な寝顔は、時々苦しげに顔を歪ませる。

その度に、苦しくなる。

もう部屋まで行くのさえ億劫で、わたしはソファの余ったスペース顔を寝かせ、すぐに瞼を閉じた。