「愛してない」2 (ページ38)

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玄関はもう開いていた。

ひかるさんが帰って来てると思うと、気持ちが軽くなった。

だけど同時に、緊張もする。

いつ、何を言われるか分からないから。

それをいつもいつも、ビクビクしながら待っている。

『ただいま……ん？』

中へ入れば何かやけに焦げ臭くて。

一瞬火事かと思って慌ててリビングを抜けてキッチンに向かう。

『ひかるさんっ！？！』

キッチンに入って辺りを見回す。

お玉片手に、泡吹く鍋と格闘してるひかるさんが、若干涙目になりながらわたしを見ていた。

や、やばい。

『……ふっ』

「……」

『ぶっ、は、あはっ……』

ひかるさんにお玉なんてやばいくらい似合わなくて、必死に笑いを堪えれば、鋭い視線を突き刺してくる。

そろそろやばいかもしれないと思うが、いや、ダメだおかし過ぎる。

『……ふふっ』

「笑い過ぎ」

拗ねたような言葉と表情が可愛い。

いい加減笑いを止めなきゃ口も聞いてくれなさそうなので深く息を吸い込み、落ち着かせる。

『何してたの？』

「…ご飯」

『え？』

「今日早く帰って来たから、ご飯作ろうと思った。」

『え！？』

鍋の中身を確認する。

どうやら味噌汁を作ろうとしてたみたいだった。

『……なんでこうなるんですか。』

「火加減が分からなかった。」

火を通し過ぎて底が焦げてしまったようだった。

『…でも、どうして？』

「別に」

フイッとひかるさんは顔を背けたけれど、耳が少しだけ、赤い。

ああ、どうしよう。

ぶわって。

愛しさが、溢れる。

「いっつも、お前が作るから…」

『…え、』

「俺も、作ろうかと」

『……』

「けど失敗した。捨てる。」

『食べるよっ！』

鍋を流し台に持って行こうとするひかるさんを止めて、味噌汁をお椀によそう。

それをその場で飲んだ。

味は薄くて、具は大きくて、少し焦げ臭い。

でも、わたしには充分。

『……おいしいよ。』

「嘘吐け」

『ほんとっ！お、おいし……よ』

「……」

『ありがとう……』

「何、泣いてんの」

誰かが、わたしのために何かしてくれたという事が、嬉しくて。

こんな温かくて優しい味噌汁、飲んだ事ないよ。