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『……っ、ん』


急激な寒気で、たまらず瞼を持ち上げた。

薄暗い部屋の中と霞んだ視界ではもはや何も見えない。

深澤さんは帰ってしまったし、体は重いし、生理的な涙が頬を伝う。


『ひかる、さん…』


返ってくる事はないって、思ってたのに。


「A。」


確かにそう聞こえて、声がした方に顔を向けた。

暗闇の中に、さらに黒い影が動いている。

よくよく目をこらせば、そこには酷く余裕のなさそうなひかるさんが居た。

またこれも自分の都合の良い夢なのかと、数回瞬きを繰り返す。

するとひかるさんの冷たい手のひらが、わたしの頬に触れた。


「A…」


しっかりと聞こえた声に、胸が張り裂けそうなくらい痛み出す。

あれ?夢?

頭が上手く回らないため夢か現実かよく分からない自分が居て。

頬に添えられた手のひらを、キュッと握った。


『……ひかるさん?』

「ん?」


わたしの顔を、心配の色を滲ませた瞳で覗き込む姿に嬉しくなった。


『ひかる、さん…』

「ん、苦しい?」

『……大丈夫』

「ちょっと待ってろ、薬とかあるから。あ、の前に何か腹に入れねぇと……」


強く、手のひらを握る。

行かないでの合図。


「……何、どこか痛い?」


嬉しくなって、やっぱり泣きたくなって、ゆっくり首を横に振った。

そんなわたしの頭をずっと撫でてくれながら、ひかるさんは目元を優しく緩ませた。


「ずっと、体調悪かったって。ふっかに聞いた。」

『だ、大丈夫……ずっとじゃないし。』

「いやでも、ご飯食べてなかったって。」

『深澤さんそんな話までしたんですか……』

「……すっげぇ怒られた。馬鹿じゃねぇのって言われた」

『な、なん、で…』

「いや、俺も馬鹿だとは…思う」


いつも自信満々で余裕綽々なひかるさんが、眉を下げて申し訳なさそうにしているのを見て、泣きたくなる。

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かえで(プロフ) - この小説大好きです!!!いつも更新楽しみにしてます(^^)頑張ってください☆ (2016年3月21日 22時) (レス) id: 683565b60e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:さと | 作成日時:2016年3月1日 16時

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