珍しゐ蒲の穂に塗れた兎 ページ23
その昔、弓が死ぬずいぶん前の収穫期の後半、
俺が珍しい兎を見つけ、逃すまいと追っていたら、
見たことない場所に出てしまったことがある。
遠くの方の、少し広い枯れ草の草原に、髪と髭が少し長いお爺さんがいて、まっすぐで、長い剣を持っていた。
太陽が反射し光る剣が風を起こしたと思えば、
周りの枯れ草が根本から斬られていて、
八岐「蛤と、芋を焼くか。」
そのお爺さんは、剣を持ちながら、腰の巾着袋から火打石を出して
剣を持っていない方の手から握っていた貝と芋を出し、せっせと準備をしていた。
八岐「そういえば、天鹿兒弓(アマノカゴユミ)と天眞鹿兒矢(アマノマカゴヤ)は元気にしているだろうか。」
違う九十九神のところに来てしまったから帰ろうと思ったけど、
あの兎が出てきたので覆いかぶさるように捕まえると、
あの人が振り向いて、走ってこっちに来た!
剣の老人「こら、すまないが、その白兎は逃してやってくれないか。」
お爺さんの方を見ていたら、兎は勝手に俺の手の中から抜け出していた。
兎はその場で一回転したら、子供くらいの背の、人っぽい形になっていた。
兎「まったく爺さんよー。せっかく因幡の海峡でやっちまった皮膚が完治したと思ったら今度は直刀(ちょくとう)のやつに追われてー、たった今弓矢の小僧に追われてー俺に怪我の荒御魂でも憑いてんのかってー」
剣の老人「キーキーと五月蝿いなぁ。
お前は珍しいがちっさいから、ろくな獲物じゃない。お前を狙う奴はまともな兎を捕まえたことのない低能力。
故に2者とも鍛錬しちゃろうと考えとる。」
兎「ちっさい言うなし!
お前もあの海の牙野郎みたいに騙してやろうか!?」
剣の老人「わしは騙されても伊勢さんに聴きゃあ真実が判るさ。」
兎「まぁいいさ、八上比賣さんのもとにいれば退屈しないからな。僕は帰る。」
剣の老人「すまないな、矢の小僧よ。
先程貴方を能無しだと言ってしまった。
詫びと言っては難だが、わしのもとで修行をしないか?直刀の子のように。
許諾してくれるなら名前を教えてくれ。」
矢「僕の名前はなお、矢と書きます。」
八岐「そうか。わしの名は熱田尾 八岐(あつたびの やまた)だ。よろしくな。」
目の前に、直刀を差した紺色のやつが現れた。
紺色のやつ「草那芸(クサナギ)さんから、名前を教えておけと言われた。
名前は菖蒲(あやめ)だ。
製作者直々に付けて貰ったんだからな。」
そうやって、俺の直刀二振りに囲まれた修行が始まった。
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:山岸ふあ | 作成日時:2020年4月14日 21時