[Elext City] Ⅱ (ページ4)

今日:63 hit、昨日:16 hit、合計:99,396 hit

＊ページ4

阿部「何」
松村「…本当に、消すんですか」
阿部「当たり前。何今更そんな事聞く訳」
松村「正気ですか。だってその人型のバグは」
阿部「あれはただの「オブジェクト」。…いつまで言い続けてる訳？」
松村の声に、阿部はその視線を画面からずらす事無く、手の動きを止める事なく淡々と返す。

松村「でも、」
阿部「じゃあ何。その情とやらに縋ったら[Elext City]は終わるよ。それでもいいの」
松村「それは…」
阿部「[Elext City]は絶対に成功させないといけない。あの時のメンバーがいない今、俺たちが成功させないと」

松村「…あの人たちは、ここにいるじゃないですか」
阿部「いないよ。ここにいるのは模倣しただけのただのプログラム」
松村「違う、そんなんじゃ、」
阿部「これ以上余計な事しないで」
一瞬だけ向けられた視線が鋭利に刺さった。
阿部「『516JT5991』に例のバグが接触した形跡がある。早く直して」

知っている。Juriにあの人型のバグが接触したの等、彼を見れば一目瞭然だった。
現に、プレイヤーはそういう演出だと思っている人もいるらしいが、Juriがいきなり涙を流し始める、なんていう、こちらが仕組んでいない事――大まかに言えば、バグになるのだが――が起こっている。

それでも松村には直せなかった。
だってきっとそのJuriの涙って、きっとあの子の本心な気がして。
「正直、辛いよ」と言っていたあの時の本心のままのような。

阿部は少し苛立ったようにキーボードを叩いている。
松村はその阿部を睨むように視線を向けると、「…DIVEしてJuriの確認をしてきます」と席を立った。