43−妬み ページ43
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勢いよく振り返る。足を組んでこちらを見下ろす継母の姿。その手にはバラ。
何故ここにいて、そのバラを持っているのか。
気になる事はあっても彼女に聞くことなんてできなかった。
冷や汗がAの背中を伝う。
「不思議ね。あの消えた娘はどこの田舎娘かと思えば、まさかこんな近くに居たなんて」
「……そのバラは、大事なものなんです。返して」
「こんなどこにでもあるバラが? 花なんて一時の美しさを楽しむ為のものよ
どうせ時間がたって枯れれば見向きもされなくなる」
継母の言葉は花に対して言っているとは思えなかった。
どこか主観的な…悲観的なその言葉。
鋭い瞳が彼女に向いた。
その途端全身が硬直するみたいに動かなくなる。
「……質問よ。昨日のドレスはどうやって手に入れたの? 盗んだの?」
「違います。……貰ったんです、知り合いに」
「は、貰ったですって? そんな上手い話があるわけない。
世の中お金が全てだもの」
「いいえ、優しさも愛もお金じゃないわ」
「愛はタダじゃない」
震えながら継母に反論するA。
対する継母は目を細めてすっと立ち上がると、そのバラを手からすべり落とした。
__ぐしゃ、
「やめて!」
彼女の言葉も虚しく、継母によって踏みつぶされたバラ。
惨めに形を変えた美しい花の朱色が継母の靴の裏にべっとりと張り付く。
「酷いわ……」
「夢を見る馬鹿な娘の目を覚まさせてやったのよ
相手は王子、貴方はただの使用人
貴方みたいな田舎娘に騙された王子が可哀そうだわ」
「どれだけいじめれば気が済むの…?
ずっと貴方からの行いが辛かった。だけど今まで我慢してきたのよ
貴方がいつか私の扱いを改めるんじゃないかと夢見て」
継母の冷ややかな目は変わらない。
外は嫌味な程に快晴。窓から差し込む光は、窓際の継母だけを照らす。
「でも貴方はいつまでも変わらなかった…。
もう十分じゃない…!
なぜ酷い事を言えるの…!?」
「――……なぜ? なぜならお前は若くて清くて素直だからよ
…でも私は、」
何かを口走りそうになった継母がはっとして口をつぐんだ。
そしてぐしゃりともう一度バラを踏みつけると、足早に扉の方へと歩いていく。
その手には鍵が握られていた。
それに漸く気付いたAだったが、すんでのところで間に合わず。
「嫌! 開けて……!」
ガチャン、重い音と共に、彼女は閉じ込められてしまったのだ。
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えん - 実弥推しだったので、すごく嬉しいです!リクエストできるなら、白雪姫の夢主と王子の実弥、鬼滅キャラの七人の小人、見てみたいです! (2021年6月3日 20時) (レス) id: dfa45071da (このIDを非表示/違反報告)
まゆまゆ(プロフ) - 実弥オオカミ!素敵です!リクエストしたいです!何だっけ?獣の子?の主人公を女にして師匠を実弥に、で恋物語に…それかオオカミ子供のアメとユキ?かジブリのハウルパロディ、もし叶うなら小芭内をお願いしたいです、玄弥、小芭内のお話ラブなのがなかなか無いので (2021年3月13日 14時) (レス) id: 442319c796 (このIDを非表示/違反報告)
めあり - 鬼滅版シンデレラですね (2021年2月14日 4時) (レス) id: ca5a6634ce (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - 湯海さん» 湯海様、最後までご愛読ありがとうございました!沢山うんうんと悩んだ結果の役ハメでしたので、そう言って頂けて努力した甲斐がありました…!この作品での実弥王子は本当にまっすぐでありながらもあざとかったですね……それすらも愛おしい(錯乱) (2020年11月30日 17時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - ayaさん» コメントに気付くのが遅くなってしまいました、すみません!aya様、こんな所にもコメント残して下さってたんですね…!ありがとうございます!aya様を幸せにする小説を作り上げることができて嬉しいです(^^) (2020年11月30日 17時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おそらまめ | 作成日時:2020年5月31日 17時