40−祝いの雨 ページ40
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12時の鐘は鳴り続ける。それが鳴り止めば魔法は解けてしまう。
Aを乗せる馬車は、宮殿からの追手を逃れながら必死に家路を急いでいた。
「急いで、ネズミさん…!」
「待て! 止まるんだ!」
後ろからの追手は近い。
先頭には、宮殿の廊下で彼女を広間まで案内してくれた騎士_杏寿郎ナイトが。
しかし彼女達は止まってはいられない。
御者のカナヲは、王都と辺境の地を繋ぐ関所の門のレバーを下げた。
彼女が通った直後、それは重く下がり彼らを足止めする。
「待つんだ、姫君!」
「大佐、まだ追いますか?」
「実弥に後で罰を食らいたいならな!」
「……追いましょう…」
_うまく撒いたA達であるが、もう魔法は解けかかっていた。
カナヲ達には特有の尻尾が復活し、ネズミはもう2匹も元に戻っている。
カボチャの馬車も段々と元の大きさへと圧縮され、中にいるAは必死に両手で食い止めていたのだが…。
「…だめだめだめ……! つ、潰れちゃう…!」
鐘が鳴り止んだ途端、ばんっという破裂音と共にカボチャは弾け飛び、中にいたAと、他の動物達は投げ出されてしまった。
美しいドレスも、あの悲惨な洋服へと早変わり。
魔法は完全に解けてしまった。
「待てー!」
「…いけない! 隠れましょう」
宮殿の追手の声が聞こえて慌てて森の茂みに隠れた彼女達。
何頭かの馬が通り過ぎた後、Aは小さな友達を抱えて笑った。
「ごめんなさいね、私ったら時間も忘れて……」
魔法は解けてしまった。_しかし、この素敵な夜は彼女の記憶にいつまでも残り続ける。
それを祝うかのように空からぽつぽつと恵みの雨が降り注いできた。
雨の中彼女は王子とのダンスを思い出して、一人でステップを踏む。
なんて幸せな夜。この雨すらもいとおしい。
「ありがとう魔法使いさん。本当に幸せな時間を過ごせたわ」
ざあざあと地に潤いをもたらす雨。
この前降った時は悲しくて仕方がなかったのに、今夜の雨は凄く幸せだ。
『A、それは何?』
「え? …ああ、これはね…。貰ったのよ、素敵な紳士に」
彼女の胸元に刺さっていた赤いバラ。
それが何よりも、今日の幸せな時間を示す大切な思い出だった。
余韻にひたっていたAだったが、時間を空けずにまた馬車の音が近づいてきた。
継母と姉たちが帰ってきたのだ。
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えん - 実弥推しだったので、すごく嬉しいです!リクエストできるなら、白雪姫の夢主と王子の実弥、鬼滅キャラの七人の小人、見てみたいです! (2021年6月3日 20時) (レス) id: dfa45071da (このIDを非表示/違反報告)
まゆまゆ(プロフ) - 実弥オオカミ!素敵です!リクエストしたいです!何だっけ?獣の子?の主人公を女にして師匠を実弥に、で恋物語に…それかオオカミ子供のアメとユキ?かジブリのハウルパロディ、もし叶うなら小芭内をお願いしたいです、玄弥、小芭内のお話ラブなのがなかなか無いので (2021年3月13日 14時) (レス) id: 442319c796 (このIDを非表示/違反報告)
めあり - 鬼滅版シンデレラですね (2021年2月14日 4時) (レス) id: ca5a6634ce (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - 湯海さん» 湯海様、最後までご愛読ありがとうございました!沢山うんうんと悩んだ結果の役ハメでしたので、そう言って頂けて努力した甲斐がありました…!この作品での実弥王子は本当にまっすぐでありながらもあざとかったですね……それすらも愛おしい(錯乱) (2020年11月30日 17時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - ayaさん» コメントに気付くのが遅くなってしまいました、すみません!aya様、こんな所にもコメント残して下さってたんですね…!ありがとうございます!aya様を幸せにする小説を作り上げることができて嬉しいです(^^) (2020年11月30日 17時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おそらまめ | 作成日時:2020年5月31日 17時