36−追懐 ページ36
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「あら、あなた達、いつの間に?」
「こいつら…」
せせらぎのように穏やかな鳴き声と共に、どこから飛んできたのか、2羽の小鳥。
それは、毎朝をAに知らせに来るかわいい小鳥たちだった。
煌びやかな衣装を着ていても彼女に気付いた2匹の小鳥は、はずむように歌って彼女の肩の周りを嬉し気に飛び回る。
「ふふ、あなた達も舞踏会に来たのね。
王子様、友達の小鳥さんよ」
「あァ」
普段ならおしゃべりの小鳥たちは、夜は静かなのか一つも声が聞こえてこない。
彼女の両肩に乗っていた小鳥は、優しい目を細めた王子の肩へと乗り移った。
その小鳥たちの行動にはっとしたのはA、ただ一人。
「不思議…この子達、私以外には人に近づかないのに」
「俺は認められたのか?」
「ええ、そうみたい」
__そういえば、"彼"も小鳥さんに気に入られていたな。
…俺は…呪いにかけられた…人間だ
勢いよく振り返った。
そこには、変わらず両肩に小鳥を乗せて優しく笑う王子。
_まさか。いいえ、そんな。だって彼はあの時…。
「…どうした?」
「……森での、貴方の話が聞きたいの」
「別に聞かせるようなモンじゃねェよ」
「お願い。貴方を知りたい」
真剣な形相で王子を一心に見つめる彼女。
やがて口をつぐんでいた彼も、観念したかのように覚悟を決めて固い口を開いた。
「_最初の数年間は、食べるもんも住む所も何もかも無くて困った
俺は宮殿育ちの一人じゃ何もできねェガキで、腹を空かしちゃ木の実を食ったり…真夜中に民家に忍び込んで台所を漁ったりしたが、一度バレて酷ェ目にあってからはずっと人の食いもんを口にしてねェ」
「そんな…」
「…その後は森を転々としてる内に、クマが魚を取って食ってるのを見て、俺も真似して食ってた
たった一度だけ、オオカミの群れが俺に捕ったウサギを銜えて俺にくれたが…血の匂いや骨が歯に当たる感触で食えたモンじゃなかった」
ゆっくりと移動して植物園の奥へと歩き出す王子。
彼女は黙ってそれについていく。
「そんな暮らしを丸々10年続けて…全てに絶望しきってた時、俺は一人の人間に出会った
…俺を怖がりもせず、腹を空かせてた俺に食べ物をくれて…俺を挙句の果てに綺麗だと言った、変な奴だァ」
思い当たる節が十分すぎる程あった。
そして隣から見上げた王子の表情も、見覚えのありすぎるもので。
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えん - 実弥推しだったので、すごく嬉しいです!リクエストできるなら、白雪姫の夢主と王子の実弥、鬼滅キャラの七人の小人、見てみたいです! (2021年6月3日 20時) (レス) id: dfa45071da (このIDを非表示/違反報告)
まゆまゆ(プロフ) - 実弥オオカミ!素敵です!リクエストしたいです!何だっけ?獣の子?の主人公を女にして師匠を実弥に、で恋物語に…それかオオカミ子供のアメとユキ?かジブリのハウルパロディ、もし叶うなら小芭内をお願いしたいです、玄弥、小芭内のお話ラブなのがなかなか無いので (2021年3月13日 14時) (レス) id: 442319c796 (このIDを非表示/違反報告)
めあり - 鬼滅版シンデレラですね (2021年2月14日 4時) (レス) id: ca5a6634ce (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - 湯海さん» 湯海様、最後までご愛読ありがとうございました!沢山うんうんと悩んだ結果の役ハメでしたので、そう言って頂けて努力した甲斐がありました…!この作品での実弥王子は本当にまっすぐでありながらもあざとかったですね……それすらも愛おしい(錯乱) (2020年11月30日 17時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - ayaさん» コメントに気付くのが遅くなってしまいました、すみません!aya様、こんな所にもコメント残して下さってたんですね…!ありがとうございます!aya様を幸せにする小説を作り上げることができて嬉しいです(^^) (2020年11月30日 17時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おそらまめ | 作成日時:2020年5月31日 17時