あなたはオオカミ 【不死川実弥】

32−最後の淑女 ページ32

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「淑女の皆様、前へ。今宵、殿下が最初のダンスのお相手を選び今夜の舞踏会が幕開けます」





宮殿の大広間では、先程淑女達の名前を読み上げた臣下が疲弊しきった声で読み上げていた。
淑女＿基そこにはあの姉たちもいるのだが、継母が他の女性を押しやって我が子二人を全面に押し出す。


そして変わらず、玉座ではカナエ王女と共に王子が退屈そうにそれを見下ろしていた。





「貴方、最初のダンスのお相手はもう決まって？」

「……まだ見つけられては」

「あら、まだ決まっていないのね」

「いいえ、相手はもう決めています」





間髪入れずにそういう王子。視線はカナエ王女に向けることなく、大広間の1階に注がれている。

天元ナイトは後ろに控えながらあまりの無礼な行いに王子の尻を蹴りたい衝動に駆られた。


しかしカナエ王女はさほど気にしていない様子だ。
むしろ笑顔で王子の隣に立つ。





「……ねぇ、王子。最初のダンスのお相手はとても重要なのよ
皆さんの前で二人きりで踊るもの、それなりにダンスの経験と見目がないと」

「王女は僕が見目の無い女性を選ぶとお思いで？」

「そんな事はないのよ。…ただ、綺麗な女性は探さなくても存在感があるものでしょう
それだけ探して見つからない程度の女性なら、どうかと思って」





若干棘の含んだ口調。
王子は美しく微笑むカナエ王女に、今度は向き直った。
その視線は隠すことなく鋭い。


＿彼女は俺の中で輝いてる。大勢の中でも彼女を見つけられる程。





「それでは王子。最初のダンスのお相手をお選びください」

「……ッチ」





隠しきれない野生の時の名残で、王族らしからぬ舌打ちが出た。
あちゃー、と天元は頭を抱える。

しかし、どうやらカナエ王女には聞こえていたなかったみたいだ。


レースの手袋した女性らしい王女の手が、彼の腕に回る。





「……王子。当然私も、婚約者候補に入っているのよね？」

「……カナエ王女、それは」





下の者に見せつけるように絡められた腕。
離れたくとも、相手は大国の王女。

邪見に扱ってはいけないとこればかりは王子も躊躇した。


王女の問いかけに口ごもった王子。
＿その時だった。





ギィィ＿＿





固く閉められた思い扉が再び開く。
誰もがその扉に注目した。

そして階段へと姿を現したのは、淡いブルーのドレスに身を包んだ、美しい女性。





「……！」





＿＿彼女だ。





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