20−漂賊 ページ20
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「…宮殿?」
男の発言に彼女は何の事か分からず首を傾げる。
男は袋を詰める手を止めないまま言葉を続けた。
「最近王都では消えた王子を国中で探し回ってんだ
それで調査の為だ何だと森を封鎖してるからな
そうなりゃ文無しの俺が食料を手に入れられる術は無くなる
だから今の内に確保しておくんだよ」
「そんな…」
男の言い分は分かる。
この国には少なくとも裕福ではない者達も居る。
物を買えない程では無いが、Aの家も一家の大黒柱を失った現在は貯金を切り崩しながら何とか生活しているのだ。
……しかし、今の男の行いは見逃して良いものなのだろうか。
「……私はここの納屋でその干魚を作った者を知ってるわ
ここを使用している者がいるのなら、貴方のそれは泥棒よ!」
「なに?」
「今すぐその袋の中身を返しなさい!
これは許されない行為です!」
「……泥棒だろうが…見つからなきゃ平気なんだよ……!」
「どういう意味?」
男は袋を投げ、入り口の彼女の方へ振り返った。
右手のナイフの刃を向けて。
_状況を理解した彼女は思わず後ずさる。
しかし落ち葉に足がもつれて尻餅をついてしまったのだ。
「…っ、ひ…!」
「この森に助けてくれる奴なんかいねぇよ!」
恐怖に足がすくみ、立ち上がる事さえままならない。
しかし着実に近づいてくる影。
そのナイフが振り下ろされ_もうダメだと彼女が目を瞑った、その時だった。
「ーーぎゃあっ!」
「……っ?」
風を切る音と、木の葉が舞う感覚。そして男の悲鳴。
いつまでも降りかからない痛みを不思議に思って彼女が目を開けると。
_彼女を守るように仁王立ちする白銀のオオカミの姿があった。
肩で息をして牙を剥き出しに警戒を見せる実弥。
「オオカミ!? …くそっ邪魔するんじゃねぇ!」
「グルルァッ!」
「実弥!!」
一瞬怯んだ筈の男は諦めを知らずもう一度こちらへナイフを振り下ろした。
そしてそれは彼の胴体に深く突き刺さる。
悲痛な雄叫びを上げたオオカミの名を呼んだ彼女の声に反応するかのように、実弥オオカミはぎりりと歯を食いしばって男の喉元に噛み付いた。
「がぁーっ!!」
首に噛みつかれた男は千鳥足で脱兎の様に逃げていく。
実弥が男を追い払ったのだ。
「……実弥…!」
_そして彼女がその毛に触れた時。
安心した様に実弥の体は崩れ落ちた。
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えん - 実弥推しだったので、すごく嬉しいです!リクエストできるなら、白雪姫の夢主と王子の実弥、鬼滅キャラの七人の小人、見てみたいです! (2021年6月3日 20時) (レス) id: dfa45071da (このIDを非表示/違反報告)
まゆまゆ(プロフ) - 実弥オオカミ!素敵です!リクエストしたいです!何だっけ?獣の子?の主人公を女にして師匠を実弥に、で恋物語に…それかオオカミ子供のアメとユキ?かジブリのハウルパロディ、もし叶うなら小芭内をお願いしたいです、玄弥、小芭内のお話ラブなのがなかなか無いので (2021年3月13日 14時) (レス) id: 442319c796 (このIDを非表示/違反報告)
めあり - 鬼滅版シンデレラですね (2021年2月14日 4時) (レス) id: ca5a6634ce (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - 湯海さん» 湯海様、最後までご愛読ありがとうございました!沢山うんうんと悩んだ結果の役ハメでしたので、そう言って頂けて努力した甲斐がありました…!この作品での実弥王子は本当にまっすぐでありながらもあざとかったですね……それすらも愛おしい(錯乱) (2020年11月30日 17時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - ayaさん» コメントに気付くのが遅くなってしまいました、すみません!aya様、こんな所にもコメント残して下さってたんですね…!ありがとうございます!aya様を幸せにする小説を作り上げることができて嬉しいです(^^) (2020年11月30日 17時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おそらまめ | 作成日時:2020年5月31日 17時