episode237 ページ44
理不尽、不平等。
そう訴えることが悪だとされる世界なら、私達はどんな言葉で嘆けばいい？
それならいっそ、この時だけは不幸話も自身の武器としよう。
だってそうでもしないと、報われないのだ。誰も。
「私の兄も、元々アレスプログラムを受けていたんだよ。君も、アレスの天秤については知っているんだよね」
「FFの時には世界的に話題になったし＿＿大会の後で野坂悠馬が表立って真実を語ったことで、今度は悪名を馳せることになったけど。サッカーを使った非倫理的な人体実験だ、って」
＿＿“アレスの天秤、と言えば有名ですよね。日本でFFが開催されている間、ロシアでも話題になりました”。
唇を噛んだ私を、愉快そうに嘲笑った彼を思い出しながら。
あの時は悔しくて、言い返せもしなくて。隙を見せてしまったのは私にとって大きなミスだ。
「そう、人格や脳機能にも影響を及ぼす。西蔭さんに後遺症が残らなかったのは、プログラム内でも極めて珍しい事例だそうだよ」
西蔭さんらしいと言えば、西蔭さんらしい。
悠馬を支える、という役目を重く捉え過ぎていた結果だったのかもしれない。幼さ故の呪いのようなそれが、確かな救いとなったのは否めないけれど。
……あれだけ回る口なのに、もう息が切れてきた。上手く酸素が回らない。
言葉を正しく選び取らないと、舌がから回って、二度と話の続きが出来なくなりそう。
「……じゃあ、あんたの兄貴も？」
＿＿“2年前、丁度今の私達と同じ歳で、亡くなってしまったけれど”。
兄の死と、アレスプログラムの欠陥。
自然にそのことと繋がるのは、おかしな話じゃない。
それは正しいのか、そうでないのか。
2年経つ私の頭の中でもまだ、答えが出ていない。
「兄の死に目には会えなかったから、
瞼と脳の裏側に、アレスプログラムに夢を取り上げられた仲間の姿が浮かんだ。
兄や、かつての仲間達を踏み付けにして、選手である私の今が成り立っていること。
そんなの痛いくらい、分かっているんだよ。
「兄はプログラムの被検体として選ばれて、英才子供センターに入れられることになった。それ以来、会っていないんだ。それどころか、最期のお別れさえ出来ていない」
一星充くんが息を呑む音と、私が息を継ぐ音が、程なくして混じり合う。
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三峰 契(プロフ) - かなりさん» コメントありがとうございます！のんびり更新ですが、これからも頑張ります！ (2020年10月9日 14時) (
レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
かなり - これからも体に気をつけて頑張って下さい！ずっと応援しています！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
かなり - 続編おめでとうございます！私は、この小説が大好きでとてもドキドキする小説です！！私、野坂君が大好きなのでまだこの小説を続けて欲しいです！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2020年10月1日 12時
