225 ここから一番近い地獄 Side M ページ32
この人は、俺達の命を握っている。
それはもう、悲しいくらいに、そのままの意味。
一生忘れられない日。事故に遭った日から、ずっと。
俺達は、この人に生かされている。
だからこそ、あの試合を終えてから今まで、生きた心地がしない。兄失格だ。
俺のせいで、俺が役目を果たせないせいで、光がいなくなってしまうかもしれない。
「あの、花綺更 Aの、ことですが」
『もういい』
地獄に垂らされた蜘蛛の糸、離せばもう二度と掴めない、それどころか見えもしなくなる。
離せない、離せないんだ。
他人から見たら虚空に手を伸ばすバカにしか見えなくても、俺達が生きる道はこれだけだから。
縋るように、その名前を叫ぶ。
組織が、この人が一番欲しがっているあいつの名前を。
なのに、“もういい”、って。それだけ。
オリオン財団の理事長、ベルナルド・ギリカナンは液晶の向こうで、きっぱりとそう告げた。
『目だけならまだしも、今回のようなトリックプレイを続けられれば厄介だ。目の能力を知ることは諦める。これ以上花綺更を泳がせ続けるメリットはもうない。＿＿潰しにかかれ、一星』
「え、……え？」
訳が分からない。
いや、訳が分からない訳なんてないのに、咄嗟に思考が拒んだんだと思う。
「……じゃあ、もうあいつの目は要らないんですか？」
『潰せ、と言っただろう。試合中の妨害は叶わなかったとはいえ、宿舎内ならいくらでも隙は突ける』
「待って、待って下さい……！俺はまだ、あいつの」
あれだけあの目を、Aを追い回して、触れないはずのところにも、触れてしまった。
背中越しの体温、悲しそうに俺の名前を呼ぶ声。
俺の掌を優しく握りながら囁いた、もう差し出されることはなかったはずの救い。
＿＿“君の心がまだ “戻りたい” と望むなら、私はいつだってその手を取るよ”。
『君はこれまで、失敗をしすぎた。このままなら我々も、君との関係を見直さねばならん』
「……なら俺は、何をすればいいんですか」
言っただろ、俺の手を取ってくれるって。
そう言うなら、今、この場で助けに来てくれよ。
『日本代表のバスのタイヤに、細工をしてある』
＿＿手を引いて、今すぐここから連れ出してくれよ。
それは悪意の塊。表向きにとはいえ、チームメイトをまとめて命の危険に晒す、嘘みたいなスイッチ。
＿＿俺が交通事故に遭ったことを知ってて？
誰かの命を握るって、こんな気分なんだ。
こんなんでよく正気でいられるよな、大人って。
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三峰 契(プロフ) - かなりさん» コメントありがとうございます！のんびり更新ですが、これからも頑張ります！ (2020年10月9日 14時) (
レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
かなり - これからも体に気をつけて頑張って下さい！ずっと応援しています！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
かなり - 続編おめでとうございます！私は、この小説が大好きでとてもドキドキする小説です！！私、野坂君が大好きなのでまだこの小説を続けて欲しいです！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2020年10月1日 12時
