episode217 Side S ページ24
Aが甘いものを欲しがるのは、使った頭に効率よく糖分を送る為。
とは言っても、野坂さんが言っていた通り“目の使い方が変わった”らしく、今はそこまで負担がかかっているようには見えない。
いつも通りのポーカーフェイス。
ただ、理屈などを置いても甘いものは元々嫌いではないようで。
「うん、美味しい」
素直にそう呟く横顔は、普段より少し柔らかい。
「あ。口の横、ついてるよ。ほら、こっち向いて」
「ちょっと、いいよ、悠馬。自分で取れるから」
普段から見慣れたやり取りを横目にしていたが、確かにAの目がすっと鋭くなったことに気付けば、全意識は彼女に攫われる。
口元についたざらめ糖をペーパーナプキンで拭いながら、Aは静かに俺達の方を見つめながら話し始めた。
「……ところで、あの日の晩の話はどこで終わったの」
ぼうっとしているようで、頭の切り替えはいつも速い。いっそ、突拍子もないとも言える。
Aが帰って来てからこの場まで、随分本題を引っ張られたものだ。
「一星君は事故で親を亡くして、病気の弟＿＿一星光君の治療費の為にオリオン財団に従い、“オリオンの使徒”としてこのチームにやって来た。そんなところだよね、西蔭」
あの日、話の途中でミーティングルームから飛び出したAを、野坂さんは追おうとしなかった。
それはきっと、Aが飛び出した理由を知っていたから。
＿＿経済効果がに大きくなるように勝敗が操作されていて、“オリオンの使徒”と呼ばれる選手達は計画通りの試合運びを円滑に進める為に組織の指示でチーム内、あるいは試合そのもので暗躍している。
笑えない冗談のような、この大会の
「……本当、やり切れない」
「じゃあ一星には本当に、病気の弟が」
ここまで来ても話を、先程から変わらず慎重に。
いや、悪く言えば焦らし続けるAに。
思わず結論を急かすようにぶつければ、Aは詰まっていた呼吸を、残りのカフェオレと一緒に喉奥へ流し込んでしまう。
「いえ、そのことに関しては、分かりません。……分からなく、なったんです。少なくとも、私が探していたはずの一星光くんは居なかった」
早くも空になったマグカップを、フォークの先でキン、と鳴らしたのは、これから本題を始める、という合図だったのだろう。
「今から話す内容はきっと、あまりにも信じ難いことだと思う。けれど、この目が捉えた事実であること。……これだけは必ず、保証するよ」
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三峰 契(プロフ) - かなりさん» コメントありがとうございます！のんびり更新ですが、これからも頑張ります！ (2020年10月9日 14時) (
レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
かなり - これからも体に気をつけて頑張って下さい！ずっと応援しています！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
かなり - 続編おめでとうございます！私は、この小説が大好きでとてもドキドキする小説です！！私、野坂君が大好きなのでまだこの小説を続けて欲しいです！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2020年10月1日 12時
