episode216 ページ23
ブラックのコーヒーがふたつと、カフェオレがひとつ。
そのうちカフェオレが入っているのは、先程灰崎くんから貰ったクマゾウのマグカップ。
「砂糖、欲しかったら自分で入れてくれ」
「ありがとう、でも大丈夫です。今日は、ちょっと大人な気分なので」
苦みを抑えたカフェオレを頼んでおいて、大人か。
そんなふうに、西蔭さんが呆れ笑いを浮かべていた。
テーブルに並び揃った、みっつのマグカップ。
私のカップの中だけにある、ミルクの渦をくるくると目で追いかけながら、悠馬と西蔭さんが椅子に座るのを待つ。
「……ん、あれ」
シンプルな白食器の中に紛れた、つぶらな瞳をしたクマの姿を見て悠馬は、何やら心配そうに私の方を見つめてくる。
「ああ、受け取ってくれなかった訳じゃないよ。ほら、ペアのマグカップだったでしょ。だから、片方を私にくれたんだ。ライバルの証だってさ」
緩く震えた、言葉の端。
嬉しいという気持ちが、灰崎くんと別れてしばらく経つ今になっても、ほんの少しだって引いてくれそうにない。
「ふぅん、そうなの」
そんなことも何となく、見透かされている気がする。
いつだって嫌になるくらい優しい、そして同時に何か言いたげな悠馬の視線から逃れるように、湯気の立つマグカップにそっと口をつけた。
「灰崎くんとAがライバル、うん、いいんじゃない。だって、僕とAは相棒だもんね」
思わず吐いた溜息は温かく、ほんのり甘くて、そしてどこかほろ苦いカフェオレが柔らかく香る。
＿＿あれから悠馬はどうやら、“相棒”という関係をひどく気に入っているらしい。
「ああもう、面倒だな……そうだよ、君は私の相棒だ。だから今は、相棒にライバルと呼べるような存在が出来る程に成長した、って。そんな風に素直に喜んでくれると、私も気が楽なのにな」
「ふふ、じゃあ、この辺りにしておくね。Aが病院まで行ってる間、気が気じゃなかったみたいで。珍しく練習にも身が入らなかったみたいだから、そろそろ西蔭のことも安心させてあげて」
「……、野坂さん」
ぱっと反対隣を振り向くと、“どうしてそれを言ってしまったんだ”と言いたげな西蔭さんが気まずそうに、悠馬ではなく、何故か私の方を睨んでいた。
(……意識するな、ってことでいいのかな)
知らないふりをするのも、ひとつの親切なのだろう。
振り向いた視線をゆっくりと逸らしながら、カステラを取り皿に乗せて、ケーキ用の小さなフォークをふわり、と沈ませていく。
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三峰 契(プロフ) - かなりさん» コメントありがとうございます！のんびり更新ですが、これからも頑張ります！ (2020年10月9日 14時) (
レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
かなり - これからも体に気をつけて頑張って下さい！ずっと応援しています！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
かなり - 続編おめでとうございます！私は、この小説が大好きでとてもドキドキする小説です！！私、野坂君が大好きなのでまだこの小説を続けて欲しいです！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2020年10月1日 12時
