episode215 Side Y ページ22
「……ご機嫌そうだね、悠馬」
Aはチューブ状のキャットフードを少しずつ彼に与えながら、その柔らかな毛並みを指先で丁寧に撫で梳いていた。
「こんなの誰でも笑っちゃうよ。甘いものが好きなはずのAが気まずそうな顔してたから、何かの心当たりでもあるのかと思ったら」
相も変わらず毅然とした態度だけど、この子はここぞという時に“やってのける”タイプ。
いや、もしそうだったとしても＿＿これは、僕の予想を遥かに上回ったものだ。
まさか監督に対して、菓子折を持って謝罪に来い、なんて言っていたとは。
「Aのそういうとこ、僕は好きだよ」
「はいはい、どうも。お褒めに預かり大変光栄です、皇帝陛下」
ただ、今回はどうにも監督が一枚上手だったみたい。
大人げない、と言えばそれまでだけど。
独特の言い回しをそのまま馬鹿正直、言葉通りに受け止められてしまったら、とげとげとした皮肉屋のAも困ってしまうのも無理はないだろう。
何やら不満そうな顔で、謝罪の品である大きな箱を開ける。
「カステラか……まぁ、謝罪の相場としては、十分かな」
「へぇ、美味しそう。ねぇ、西蔭。これ、3人分切り分けてくれるかな」
依然として品定めのように中身を覗き込んでいたAからカステラの箱をひょい、と取り上げて、キッチンに立っていた西蔭にお願いをする。
どう切り分けようか、と少し考え込んだ後で、答えが出たらしく“分かりました”と西蔭は頷いてくれた。
ポットのお湯もわいていたから、コーヒーもすぐ淹れ終わりそうだ。
コーヒーブレイクの時間が来るまで、もう少し。
「何はともあれ、私に直接渡しに来なかった辺りが、どうにも気に入らないけれど」
それまでにAのご機嫌取りをしておかないと。
今回の一星光君のことについても、これから色々と聞かないといけないし。
「でも、珍しく嫌味っぽい態度でもなかったよ。申し訳ございませんでした、って」
「……え、そんな急に改心するのかな…何だか、訳が分からなくて不気味だな。あの監督」
珍しくテンポを崩されたままで、心地悪そうに眉を顰めたAを少しでも宥めるように、肩を竦めながら“お手上げだよね”、なんて同調してみる。
「だって、僕達を退けて、無名の11人をFF優勝まで導いた監督だからね。普通じゃない。この上なく、得体の知れない人だよ」
そして何の因果か、そんな監督の下に、かつての悪役であったはずの僕達がいるということ。とても、おかしな話。
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三峰 契(プロフ) - かなりさん» コメントありがとうございます！のんびり更新ですが、これからも頑張ります！ (2020年10月9日 14時) (
レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
かなり - これからも体に気をつけて頑張って下さい！ずっと応援しています！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
かなり - 続編おめでとうございます！私は、この小説が大好きでとてもドキドキする小説です！！私、野坂君が大好きなのでまだこの小説を続けて欲しいです！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2020年10月1日 12時
