episode210 Side Y ページ17
いつもは賑やかな商店街も、急な雨となっては人通りが少なくなる。
傘、もしくは傘代わりの上着やタオルで視界が悪いせいか、僕達に気付く人もいない。
それか、もし気付いたとしても、こんな煩わしい雨の中じゃ駆け寄ってくるのも面倒になるのかもしれない。
こうして静かに街中を歩けるのは久しぶり。
Aは多分あの試合のこともあって、これからしばらく追い回されることになるだろうし。
人の噂も、所詮七十五日まで。
彼女が気疲れする前に、落ち着いてほしいところだ。
＿＿それにしても。
ねぇ。同じ傘に入っている僕よりも近くにいる、その子は誰なの？
「猫、好きだったっけ」
「今日、好きになったところだよ。ね、白猫さん」
にゃあ、と元気に返事したのは、Aの腕に大事そうに抱かれた白い猫。
ふいに此方を見たのは、綺麗なオッドアイだった。
(金目銀目、だっけ。初めて見たけど、こんなに綺麗なんだ……)
その美しさが、Aの目とよく似ている気がして。
僕はじっと目を見合わせていたのに、すぐに白猫はAの方に向き直って、にゃあにゃあと構ってほしげな鳴き声をあげ始める。
「はは、ごめんってば。……もうすぐ、宿舎だから。もう少し我慢できるかな」
……ああ、今、すごく大人げないこと考えてる。
でも、Aがそんなに風に誰かに構うところ、僕だって初めて見たんだ。
「傘は、どんな人に渡してあげたの」
僕なんて見えてないみたいに、小さなその子ばかりを可愛がるから、僕の存在をAの中で確かめさせるようにそう問う。
「可愛い兄妹にあげたよ。小学生と幼稚園児くらいの、小さな子達に。その子達が、FFの時から私のことを応援してくれていたんだったんだって。この前の試合、すごかったよって言ってくれた」
Aの機嫌を損ねるかな、とも考えたけど、そんな心配は要らなかったみたい。
まるで、夜に見た素敵な夢を教えてくれるみたいな柔らかな微笑みで続ける。
「悠馬でもなくて、西蔭さんでもなくて。今の私を見ていてくれるひとも、前までの私も見ていてくれたひとだって、ちゃんと居たんだって」
同じ傘の下のせいだろうか、僕達の内緒話は、その傘の布地に跳ね返っていつもより心地よく響いていた。
雨音のノイズに引き立てられた、涼やかで中性的なAの声が、どこか不思議な安心感を引き連れてくる。
「……ふふ。そうだね、なんだか、すごく嬉しそう」
「……嬉しくない訳、ないでしょ」
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三峰 契(プロフ) - かなりさん» コメントありがとうございます！のんびり更新ですが、これからも頑張ります！ (2020年10月9日 14時) (
レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
かなり - これからも体に気をつけて頑張って下さい！ずっと応援しています！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
かなり - 続編おめでとうございます！私は、この小説が大好きでとてもドキドキする小説です！！私、野坂君が大好きなのでまだこの小説を続けて欲しいです！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2020年10月1日 12時
