195 サマーナイト・ノクチルカ ページ2
一星光くん。
一星充くんの、弟。
そして恐らく、今の一星充くんの立場を知らない＿＿
「A」
何の警戒もなく、開け放したままの部屋のドアの向こう。
ぼんやりとライトにとろけた人影が、背後で仄暗く揺れていた。
ゆっくり目を合わせながら、力の込もっていた手から手紙を机へと滑り落とす。
指先の影が落ちた先。書き手の名前を確かめるように、もう一度そっと人差し指でなぞる。一星光。
「あの話の途中で部屋から飛び出した私を、すぐに追い掛けて来なかったのは賢明だよ。君も知らない間に成長しているんだね、悠馬」
「こういう時にまで、強がらないの」
悠馬も、今何を考えているのかが分からない。
怒っているようにも、悲しんでいるようにも見える。
でも、あそこで一星充くんについて、全てを聞いてしまうのは怖かったから、逃げ出すなんて大人げないことをした。ただ、それだけ。
「……あのね。あの話を聞いて、少しだけ由羽真くんのことを思い出したんだ」
同じ名前だけど、指しているのは自分ではない。
それを瞬時に悟った物静かな眼差しが、寂しく塞ぎ込んだのが分かった。
やっと絞り出した言葉の端は、今にも風に吹かれて儚く砂になってしまいそうで。
「僕も由羽真さんのこと……ううん、ごめん。君の前でそんなこと言っちゃ、駄目だよね。忘れて」
忘れて、と言われたって、そんな顔、忘れられない。
「君って……ああもう、何でここで謝るのかな。“僕もあのひとのこと、それくらい大事に思っていたから”、って。それくらい、はっきり言ってみせなよ」
この気持ちを訴える最善策としては、怒りでぶつけるべきなのか、それとも悲しさで縋るべきなのか。
分からない。分からないのに、伝えなくちゃいけないと、歯痒さを覚える。
「今の一星君の気持ちが分かるのは、きっとAだけだと思ったから。家族って、それくらい確かで、重たいものなんでしょ。その家族から相手にされなかった僕には、到底分からない話だけど」
軽い同情なんて、許されない。
それはまるで、不可侵の檻。
そうだと跳ね除けるように、悠馬は悲痛そうに笑う。
……一体、強がっているのは、どっちの方なんだか。
こんな時まで無理に笑ったりなんかしないでよ。
息苦しさのあまりに、挑発や慰めの言葉は喉で留まっていた。
「……近いうちに、会ってくるよ。一星、光くんと」
なんて思いやりの足りない、“逃げ”の言葉だ。
情けなく思いながら、悠馬がゆっくり頷くのを見守る。
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三峰 契(プロフ) - かなりさん» コメントありがとうございます！のんびり更新ですが、これからも頑張ります！ (2020年10月9日 14時) (
レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
かなり - これからも体に気をつけて頑張って下さい！ずっと応援しています！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
かなり - 続編おめでとうございます！私は、この小説が大好きでとてもドキドキする小説です！！私、野坂君が大好きなのでまだこの小説を続けて欲しいです！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2020年10月1日 12時
