episode45 ページ45
前半終了の時点で、得点は1-3。大きく開けられた点数差と奇妙な技、そして前回と同様、鏡の反射による目眩し。チームの雰囲気は落胆より、困惑に近い。
ハーフタイムを知らせるホイッスルを意識の遠くで聞き、できるだけ負担がかからないようにゆっくりと視界を自分のものに戻す。
試合中に見た景色を、頭の中で順番に整理。
目で全て取り込んだ情報の羅列を、今度は重要な部分同士点と点で繋いでいく。
少しずつ、この大会の裏で起こっているらしい異変は紐解けてきたと思う。
まばらにピースが揃ったパズル、後は残りの隙間を埋めるだけ。
この試合、後半からは目的を絞ることができるのが唯一の救い。
「……やっぱり、きついか」
弱音は出るのに、頭は止まらない。
目が必要以上に冴えれば、噛み合わされた歯車のように比例して頭も必要以上に働かされる羽目になる。
「A、大丈夫なの?少しふらついてるみたいだけど」
そんな軋みの隙間をくぐるように、背後からそっと声を掛けてくれたのは稲森先輩だ。
稲森明日人先輩。私がFFで唯一出場した決勝戦での対戦相手、雷門中のキャプテンを後任という形で務めていたひと。
太陽みたいに眩しい彼が、悠馬は少し苦手だったみたい。確かに悠馬とは真反対のタイプだ、とぼんやりとしながらもそう思う。
心配そうに眉を下げながら”俺が支えよっか”と手を差し伸べてくれる。
「ありがとうございます、稲森先輩。でも大丈夫で、__あ」
それでも申し訳なくて断ろうとしたものの、最後まで言う前に腰が抜けてしまった。
「……稲森先輩、西蔭さんを呼んで貰えませんか」
稲森先輩は、突然その場に座り込んだ私の顔を覗き込むなり”あ!”と目を真ん丸に開いて、あわあわとあからさまに慌てながらベンチの西蔭さんに向かって叫んだ。
「西蔭、ちょっと来てあげて!Aが……」
ぽたぽた、と鼻から滴る生暖かい感覚。
”しまったな”と頭の中では嘘みたいに冷静に受け止めていても、それに反して心臓は嫌になるくらい大きく暴れる。血を見るのは苦手だ。
「おい、どうした」
稲森先輩の声でざわつきの起こるベンチから駆けつけて来てくれた西蔭さんは、鼻を押さえる私の指の隙から垂れた血を見て事情を察したらしい。
苦々しく顔を歪めながら、稲森先輩には聞こえないように小さな声で私に問う。
「……馬鹿、一体どれだけ目を使ったんだ」
恐らく今、その質問に対して正直に答えたら、怒られることはまず避けられない。
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契(プロフ) - 翡翠さん» 初めまして、第一幕を最後まで読んで頂きありがとうございます!ゆっくりスピンオフの方も進めていきたいですね、本編とは違った雰囲気の3人を書けたらなと思っています!コメントありがとうございました! (2019年10月6日 8時) (レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
契(プロフ) - ういさん» 初めまして、第一幕に最後までお付き合い頂きありがとうございました!沢山ある作品の中で、ういさんの楽しみになれていることが作者としてとても嬉しい限りです。お気遣いまで本当にありがとうございます、引き続き更新頑張りますね!コメントありがとうございました! (2019年10月6日 8時) (レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
契(プロフ) - 裕大@受験生のため低浮上さん» 初めまして、最初から読んで頂きありがとうございます!テレビ電話越しや西蔭さん経由でもあの甘やかしようなので、日本代表合流後は更に!と書いている本人もドキドキしていたりします……!これからもお付き合い頂けたら嬉しいです!コメントありがとうございました! (2019年10月6日 8時) (レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
契(プロフ) - アオさん» アテナの羅針盤、響きがそっとお気に入りです。笑 第二幕では野坂さんと主人公の出会い、過去の関係、主人公の目が目覚めた過去に少しずつ触れられると思いますので、楽しんで頂けたら嬉しいです! (2019年10月6日 8時) (レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
翡翠(プロフ) - 初めまして!とっても楽しく読ませて貰っています!王帝月載宮スピンオフ楽しみにしてます! (2019年10月6日 0時) (レス) id: 0bbffb7c2b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:契 | 作成日時:2019年8月16日 12時