episode44 ページ44
敵チームの動きや一星充くんの動きだけじゃない。フィールドに留まらず、試合会場という空間の全てを2つの目に叩き込む。
でもそればかりに気を取られてはいけない、試合は疎かにしないように。今の私は1人の選手だ。
しかし私は、第2試合からスタメン入りという恵まれた状況の中、”なんて不運なんだろう”とひっそり独り言ちる。
稲森先輩をはじめ、保持していたはずのボールが次々に不自然な形で奪われ続けた。
第三者の目からではボールを勝手に明け渡してしまっているように見えるのに、保持者は何も自覚がないまま”いつの間にかボールが奪われていた”という認識。
まさか、視覚性幻覚を使われるとは思わなかった。
「平気か、A」
零れたボールがタッチラインを越えていくのを見届けた後、鬼道先輩が私が立っている前線まで声を掛けに来てくれた。
”どうして急に”と思えば鬼道先輩はとんとん、とゴーグルをつつく。恐らく目を指し示しているんだろう。
FFIでこのような事件に巻き込まれた以上、悠馬には”具体的な能力に関してはあまり他言しないように”と念を押されているものの、このひとはそう簡単に騙せないらしい。私の目について、何となく察している様子。
「ありがとうございます、鬼道先輩」
「”平気か”の問いかけに対して”ありがとうございます”、か」
淡々と告げる鬼道先輩を見て、返答の誤りに気付く。これじゃまるで平気でないことを白状してしまったようだ。
言い逃れのしようがなくて、無意識の内に乾いた笑いが唇から零れ落ちる。
実の所試合が始まってまだ数分程度なのに、正直現時点で既に平気とは言えない。
幻覚が私の目にそう簡単に効きやしないのは知っている。
しかしこの幻覚が脳に働きかけるもの。そのせいで目が認識している光景と、脳が認識しようとする光景がちぐはぐになってしまっている。軽く混乱状態だ。
「あまり平気だとは言えません、でも大丈夫です。こうして試合に出ている以上、選手としての役目は果たしますよ」
そろそろゲームが再開される。
もう一度いくつもの視点をフィールドとボールに定めようとするものの、それを阻止されるように”待て”と手首を掴まれて進み出そうとした足が後ろへと取られた。
「……お前の目は、一星の悪事を暴くことは可能か」
怒っているのか、余裕がないのか。
それはどちらも当てはまるようで、いつもより強く宿らせた眼光はゴーグルのレンズ越しでも微塵も鈍ったりはしないまま。
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契(プロフ) - 翡翠さん» 初めまして、第一幕を最後まで読んで頂きありがとうございます!ゆっくりスピンオフの方も進めていきたいですね、本編とは違った雰囲気の3人を書けたらなと思っています!コメントありがとうございました! (2019年10月6日 8時) (レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
契(プロフ) - ういさん» 初めまして、第一幕に最後までお付き合い頂きありがとうございました!沢山ある作品の中で、ういさんの楽しみになれていることが作者としてとても嬉しい限りです。お気遣いまで本当にありがとうございます、引き続き更新頑張りますね!コメントありがとうございました! (2019年10月6日 8時) (レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
契(プロフ) - 裕大@受験生のため低浮上さん» 初めまして、最初から読んで頂きありがとうございます!テレビ電話越しや西蔭さん経由でもあの甘やかしようなので、日本代表合流後は更に!と書いている本人もドキドキしていたりします……!これからもお付き合い頂けたら嬉しいです!コメントありがとうございました! (2019年10月6日 8時) (レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
契(プロフ) - アオさん» アテナの羅針盤、響きがそっとお気に入りです。笑 第二幕では野坂さんと主人公の出会い、過去の関係、主人公の目が目覚めた過去に少しずつ触れられると思いますので、楽しんで頂けたら嬉しいです! (2019年10月6日 8時) (レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
翡翠(プロフ) - 初めまして!とっても楽しく読ませて貰っています!王帝月載宮スピンオフ楽しみにしてます! (2019年10月6日 0時) (レス) id: 0bbffb7c2b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:契 | 作成日時:2019年8月16日 12時