episode36 ページ36
鬼道先輩のお陰で円堂先輩はボールを避けることができた。
ゴールネットを破り、壁に刺さったボール。その光景が烙印のように目に焼き付けられる。
間一髪怪我は免れたという安堵と、鬼道先輩が声をあげなければどうなっていたかという恐怖。強烈なコントラストを描く2つの感情に苛まれ、思わずその場にぺたんとへたり込んだ。
「大丈夫か、円堂」
「ああ、鬼道が声をかけてくれなきゃ危なかった……」
すぐに円堂先輩に駆け寄っていく鬼道先輩に着いていくこともできず、諦めてしばらく入口付近から3人の遣り取りを伺うことにした。
会話は上手く聞き取れないけれど、大体の流れは目で読んで取れる。
怒りを露わにする鬼道先輩、やっていないと言い逃れようとする一星充くん、鬼道先輩を宥めようとする円堂先輩といった様子だ。
もし鬼道先輩が通らずに怪我を負っていたとしても、恐らく円堂先輩は一星充くんのことを疑わなかっただろう。
そうすれば円堂先輩が怪我により一時離脱している間に、自分に都合良く話を捻じ曲げることは容易い。
バタフライエフェクト。
偶然だろうけれど、鬼道先輩が遅れてやって来てくれたことにより、一瞬の証拠を入口付近という空間全体を見渡せる場所で捉えることが出来たようなもの。
逃がしちゃいけない。鉛に捕らえられたような重たい足を立てて、3人の元へ歩む。
「あ、Aさん!」
1番に気付いたのは一星充くん。掴みかかる鬼道先輩からやや力任せに逃れて、此方に駆け寄って来る。
”見てください、これ”と無意識か故意か、ボールに仕込まれた光る針の先端を向けられた。
「僕を信じてください、Aさん。僕以外の誰かがこんなものを仕込んだんです」
何も言わずにいると、一星充くんは態とらしく眉を下げて甘えるように私の手を握る。
「Aさんも、僕がやったんだって思いますか?」
今冷静さを欠いてしまえば、それこそ終いだ。
「一星充くん。そのボール、貸してもらえるかな」
「そんな……危ないですよ。これは僕がちゃんと処分しておくので」
「……このままじゃ君、疑われたままだよ。君が本当にやってないって言うのなら、素直にボールを渡して。後ろめたいこと、ないんだよね」
渡してくれないのなら、信じてあげない。
そう吹っ掛けてやれば一星充くんはぐっと悔しそうに唇を噛み、納得は行かないものの引くしかないといった様子でボールを寄越してくれた。
こうして手にしたそれは、揺るぎない物的証拠。
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契(プロフ) - 翡翠さん» 初めまして、第一幕を最後まで読んで頂きありがとうございます!ゆっくりスピンオフの方も進めていきたいですね、本編とは違った雰囲気の3人を書けたらなと思っています!コメントありがとうございました! (2019年10月6日 8時) (レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
契(プロフ) - ういさん» 初めまして、第一幕に最後までお付き合い頂きありがとうございました!沢山ある作品の中で、ういさんの楽しみになれていることが作者としてとても嬉しい限りです。お気遣いまで本当にありがとうございます、引き続き更新頑張りますね!コメントありがとうございました! (2019年10月6日 8時) (レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
契(プロフ) - 裕大@受験生のため低浮上さん» 初めまして、最初から読んで頂きありがとうございます!テレビ電話越しや西蔭さん経由でもあの甘やかしようなので、日本代表合流後は更に!と書いている本人もドキドキしていたりします……!これからもお付き合い頂けたら嬉しいです!コメントありがとうございました! (2019年10月6日 8時) (レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
契(プロフ) - アオさん» アテナの羅針盤、響きがそっとお気に入りです。笑 第二幕では野坂さんと主人公の出会い、過去の関係、主人公の目が目覚めた過去に少しずつ触れられると思いますので、楽しんで頂けたら嬉しいです! (2019年10月6日 8時) (レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
翡翠(プロフ) - 初めまして!とっても楽しく読ませて貰っています!王帝月載宮スピンオフ楽しみにしてます! (2019年10月6日 0時) (レス) id: 0bbffb7c2b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:契 | 作成日時:2019年8月16日 12時