【野坂悠馬】戦術の皇帝と聡眼の麗乙女【イナズマイレブンオリオンの刻印】

episode23 ページ23

「どうして何も言い返さない」

何も言わずにじっと見つめ返していたら、痺れを切らしたらしく西蔭さんは返事を催促した。

口調が厳しいのはいつも通り。けれどその目は、私を責める訳でもない。まるで、”嘘は良くない”と子供にでも説くような向き合い方だ。
これもまた、悠馬からの使命である”お守り”とやらの延長なのだろうか。

「言い返すも何も、まだ西蔭さんの口からは結論しか聞いていません。まずは話を全て聞きたい。どうしてその結論に至ったのか」

ぱっと開いた手のひらを差し伸べる。あえて余裕を見せた”Please(要求)”のハンドサインに、西蔭さんは煩(わず)らわしそうに目を細めた。




「韓国戦後にこう言った、”この大会に嫌な予感がする”と。そして、”何となく、今は勘だ”だと続けたが」

裏付けされた証拠もない、そんな傍から見れば妄言でしかないそれを、西蔭さんは決して逃していない。

「あえて言わなかっただけで、既に疑うだけの根拠は持ってたんだろう。
ただでさえエースストライカーが封じられたという状況下だ。わざわざ勘なんかで余計な強迫観念を植え付けるなんて馬鹿なことを、あんたはしたりしない」

否定はできない。その時には、スパイクに鏡が仕込まれていたということだけは知っていた。

しかし、それだけでは『大会自体に何かがある』とは言えない。ただ豪炎寺先輩の怪我が意図的に引き起こされたものと混乱を招くだけの話。

だから現時点で代表から一歩引いた位置にいる悠馬には報告したけれど、同じ代表の輪にいる西蔭さんには言わなかった。

「根拠を求めた時には”何となく”と明言を避けた。あからさまに”怪しいから気を付けろ”と言うのではなく、”念の為、油断などはするな”と遠回しに戒(いまし)めることで『要注意』であることを強調し、『疑惑』は最小限に抑えられる」

「そうですね、何ひとつ間違っていません」

表情は変えない、頷いたりもしない。言葉だけで首肯する。

それも構わない、もしくはどうだっていいと言うように、西蔭さんは変わらず冷静な口調で続けていく。

「話を戻す。今回の話は”一星がこの試合に負けると口にしたかも知れない”……明言を避けたのは、前と同じだ。だが、あんたはその先をどう説明した？」

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