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episode22 Side S ページ22

マグカップから立ち上る、ミルクココアの湯気。

いつもの朝はバタバタと忙しい。時間に間に合わず最終的には朝支度を手伝わされる羽目になるが、今日は珍しくしっかりと起きてくれたお陰で、随分落ち着いた朝を過ごしている。

「さっきの話だが」

カップに口を付け、こくりと喉を通ったのを見計らって、先程の話を終えてから会話のないこの部屋に張り付いた沈黙を破る。

彼女の話から生じた違和感を、聞かずにはいられなかった。

「野坂さんにも報告したのか」

「もちろん」

「野坂さんは、何と言っていた」

「”一星君のことを、他でもない君の目でよく見極めてみて”。そう言っていました」

彼女がカップに ふう、と息を吹けば、その吐息に甘い香りが一層強く香って部屋の隅々までを満たしていく。

「これっぽっちの証拠じゃ、どうにもならないのは事実。この自分勝手な疑いを晴らす為、もしくは裏付ける為。私はあの子を知りたいと思います」

「つまり、あの話は現段階で確信には至らないと?」

思わず食い気味に返した俺の言葉に、彼女は軽く驚いたように目を見開きながらも、すぐにいつものポーカーフェイスに戻って”そうなります”と極めて冷静に頷いた。

「12文字の母音に間違いがないのは保証できる。でも、だからといって”この試合、日本は負ける”と確かに言った証拠にはなり得ないでしょう」

そう呟き、何でもなさそうな素振りでゆっくりと視線を外していく。

しかし、俺はAから目を離せずにいた。
俺の中で芽生えた違和感は、このやりとりで更に膨らんでしまったのだ。

「それは、嘘だ」

膨らんだ違和感が、這い出でるようにして喉をこじ開ける。

「証拠がないなんて真っ赤な嘘だ、あんたは既に確信してるんだろう。あいつが”負ける”って言ったのを」

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(プロフ) - 翡翠さん» 初めまして、第一幕を最後まで読んで頂きありがとうございます!ゆっくりスピンオフの方も進めていきたいですね、本編とは違った雰囲気の3人を書けたらなと思っています!コメントありがとうございました! (2019年10月6日 8時) (レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - ういさん» 初めまして、第一幕に最後までお付き合い頂きありがとうございました!沢山ある作品の中で、ういさんの楽しみになれていることが作者としてとても嬉しい限りです。お気遣いまで本当にありがとうございます、引き続き更新頑張りますね!コメントありがとうございました! (2019年10月6日 8時) (レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 裕大@受験生のため低浮上さん» 初めまして、最初から読んで頂きありがとうございます!テレビ電話越しや西蔭さん経由でもあの甘やかしようなので、日本代表合流後は更に!と書いている本人もドキドキしていたりします……!これからもお付き合い頂けたら嬉しいです!コメントありがとうございました! (2019年10月6日 8時) (レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - アオさん» アテナの羅針盤、響きがそっとお気に入りです。笑 第二幕では野坂さんと主人公の出会い、過去の関係、主人公の目が目覚めた過去に少しずつ触れられると思いますので、楽しんで頂けたら嬉しいです! (2019年10月6日 8時) (レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
翡翠(プロフ) - 初めまして!とっても楽しく読ませて貰っています!王帝月載宮スピンオフ楽しみにしてます! (2019年10月6日 0時) (レス) id: 0bbffb7c2b (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2019年8月16日 12時

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