てがみ-5 ページ30
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Aは、振り返らなかった
すぐにでも走り出して、
抱きしめたかった。
「こういうときだけヌナって呼ぶなー！」
言ったA声が、震えていたから。
Aの後ろ姿が、震えていたから。
だけど、行けなかった。
振り返らず、
まっすぐ夢だけを見て歩き出すAは、
輝いていたから。
僕の大好きなAの姿だったから。
「泣いてるの？」
からかったら、
「目にゴミが入っただけ、泣いてなんかない！」
って言うだろうな。
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冷たい陽が射す、旅立ちの日、
僕には聞こえた、
Aの「ありがとう」
暖かい気持ちになった。
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部屋に入って、
手紙を何度も何度も読み返す。
やっぱりAは変わっていない。
変わらず、夢に向かって走り続けている。
あれから長い月日が経ったけど、
僕の気持ちはあの頃のまま。
いつか忘れる日がくる、
なんて誰かは言うけど、そんなことはない。
恋に時効なんてない。
あの時、Aに気持ちを伝えようとして、
ぐっと我慢したのは自分。
でも
おかしいな。
自分で出した答えなのに、少し後悔している。
あのまま、「行くな」って言ってたら、
今ごろ二人でいるのかな。
あの頃のことを思い出して、
笑っているのかな。
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いや、Aにかぎって
絶対そんなことはない。
僕が気持ちを伝えていても、
「行くな」と言っても、
Aは夢に向かって走ってた。
だから、無駄だと思って
我慢したんだった…。
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何回かAは手紙をくれたけど、
まだ一度も返事をできないでいる。
僕が返事をしなくても、
手紙を送ってくれる
Aは僕が返事を書けない理由、
わかってるんじゃないかな。
書けば書くほど、
Aに向けた
ただのラブレターになってしまうこと。
そんな僕に、
「今さら何書いてるの？」って、
笑った顏が浮かぶ。
CM「笑うなら…ヌナの韓国語ですよ。
これだからヌナは…」
手紙に話しかけても聞こえそうなAの声。
いつか僕がAに教えてあげた韓国語。
何回教えても覚えなかった。
興味があることは器用、
興味がないことには不器用。
そんなAを思い出して笑った。
.
Aは僕からの返事を
待っているような気がする。
必ず送るから。
もう少し、待ってほしい。
その日まで。
待っていて。
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作者名：ちゃむ | 作成日時：2020年5月21日 22時
