All of me. (ページ5)

今日:7 hit、昨日:36 hit、合計:205,391 hit

004:ﾊﾘｰとｼﾞｭﾈページ5

「今日は休み？」
「ああ、そうみたい」
「そうみたいって…ｼﾞｭﾈ、本当は何者なの？」
「聞かない約束だろ。てか、それおばさんの事だからね」
「…ま、確かに」

ｼﾞｭﾈは

まだ20代前半の子供だ。

だけど彼の生活ぶりは

ただアルバイトをしてるだけでは到底賄えないと思えるほど

少しばかり贅沢なものに見えた。

記憶を失くして

呆然と佇む私に

素性に一切立ち入らないって約束してくれるなら雇ってやると言って

彼はﾅﾏｲｷな顔で笑った。

行く当てのなかった私は

彼に付いて行くしかなかった。

私は言ってみれば彼の部屋のお手伝いさんみたいなものだ。

しかもありがたいことに住み込みで給料だって発生する。

最初に給料をもらった時予想以上の多さに

ただ家事をするだけでこんなに貰っていいのかと言ったら

おばさんもっと強欲にならなきゃこんな世界じゃ生きてけないよ？って説教された。

私は財布もﾊﾟｽﾎﾟｰﾄも銀行口座も鍵だって持ってる。

自分の名前と日本の福岡の住所だって知ってる。

だけどその全てが全部ﾋﾟﾝと来なかった。

ｼﾞｭﾈに助けられた時

私は携帯を持っていなかったらしい。

だけどこれは持っていと

彼が私に渡したのは

あまりにも有名な高級ブランドの指輪だった。

「今頃ﾊﾘｰはどういう思いで生きてんだろ」
「そもそもﾊﾘｰいるのかな」
「何言ってんだよ。あれはどう見てもそういう指輪だろ」
「…どうだろ」
「やっぱ警察行った方がいいんじゃない？」
「…分かってるけど、それは絶対にしちゃいけない気がするの」
「おばさんもしかしてﾊﾘｰの事…」
「やっぱそうなのかしら…」
「やだよ俺そういうの…正直に吐きな」
「だから覚えてないんだってば」
「あーこわ…」

私にその指輪を送った相手を

ｼﾞｭﾈは指輪のブランドから勝手にﾊﾘｰと呼んでいる。

毎朝目覚める直前に聴こえるあの声は

きっと彼の声なのだろう。

濃い霧がかかる夢の中

背の高い影と

大きな手

私の名前を呼ぶ優しくて深い声

時々あの指輪の感触を思い出す時

ﾌﾜﾘと幸福に包まれる気もした。

「ｼﾞｭﾈ、ﾋﾏなら付き合ってよ」
「どこ？」
「買い物」
「仕方ねーな」

ｼﾞｭﾈは子供だし口も目つきも悪い。

私の前ではﾍﾟﾗﾍﾟﾗ喋るくせに

外に出ると不愛想で

多分女の子にﾓﾃるタイプではない。

だけど彼の不器用な優しさを垣間見ると

姉のような気分になった。