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037:真っ暗 ページ38

「チャンミンさん?」
「…あ、…すみません、少しぼーっとしてしまいました」
「私の方こそなんか夢中になってしまって…すみません」





いくら彼が見たいと言ったからって

ついつい話し過ぎてしまった自分が恥ずかしくて

ソファーの上に広げた服たちを急いで袋に詰めようとした時

大きな手が私の手首を掴んで

鮮やかな碧いシャツがフワリと足元に落ちた。





「まだ………もう少し見ていたい」
「え…」




咄嗟に振り向くと

チャンミンさんが切なそうな目で

じっと私を見つめていた。

でも 次の瞬間

我に返ったのか

すみません、やっぱり今日はもう休もうかな…

そう言って大きく背伸びしながら寝室に入って行った。





彼を愛した記憶は失っているのに

こんなにも心臓がうるさい。





彼がこの街を訪れる時は

必ずこの部屋を使うと聞いた。

私も何度か泊まっているらしい。

さっきフロントの女性が

お久しぶりですね、Aさん

そう言ってにっこり笑って話しかけてきた。





記憶を失くす前日も

私はこうやって この大きな窓から

この街の夜景を見ていたのかもしれない。






この旅で 少しでも、一カケラでも思い出せれば

チャンミンさんにあんな目をさせないで済むかもしれないのに。

もしこのまま何年も記憶が戻らないなら

私は彼にとって どういう存在になるのか

私にとって 彼がどういう存在になるのか

そんな事を考えると

婚約者だからって

このまま 彼のそばにいる事は許されない気がする。





少し前までの私たちの写真は

どれも幸せそうで

とてもじゃないけど 自分じゃないみたいだ。





明日は 家族が会いにきてくれるらしい。

両親も弟も 早く会いたいと言ってくれている。

電話口で家族の声を聴いても

何も思い出せなかった。

明日 そんな私を見て

家族はさらに絶望するかもしれない。





『俺だ!』
「…ジュネ?」
『どう?故郷の匂いは爽快?』
「爽快かどうかは…分からないけど」
『お土産よろしくね〜』
「はーい」





このタイミングで電話を架けてきたジュネ。

彼の記憶もない私にとって

彼の明るい声が 心に優しい。

彼が私を保護してくれたのは

たったの3か月らしい。

だけど こんなに懐かしさを感じるのはなぜだろう。






何をどう考えても

私の記憶は真っ暗なまま。

結局 眠りに就いたのは早朝で

起きたら もうチャンミンさんは出掛けた後だった。

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作成日時:2017年5月20日 0時

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