カフェオレ男子【昼神幸郎】

３６．ＢＧＭ ページ36

大きな大きな管楽器と打楽器の音。



そんな大声援に、たった３つの音なんて大したことは無いかもしれないけれど



みんなが本来の力を出せるように




私は、それを構えた。




ーーー


ＮＯside



噂に聞く稲荷崎の大声援。


公式練習から放たれる美爆音に、鴎台のレギュラーの殆どが意識を持って行かれかけた時



相手の音が打楽器だけになったタイミングで、音量だけではない圧倒的に澄んだ音色が聞こえてきた。



管楽器でもなく、稲荷崎の応援でもなく



鴎台のベンチから聞こえる、音。




弦楽器の音だ。




体育館中の目線が鴎台の応援席に集まる。



そこには３人のよく似た顔立ちの人達が、それぞれに弦楽器を構えていた。


やたら顔の良い男がチェロを弾き


やたら美人な女がヴァイオリンを座って弾き


そしてやたら可愛い女子高生が、立ってヴァイオリンを弾いている。



稲荷崎の大きく、軽快なリズムを作り出す打楽器の音を逆に利用するように、低く唸るような前奏から始まったその曲は、誰もが知る名曲。




【パイレーツ・オブ・カリビアン〜彼こそが海賊〜】




誰が聞いても、そしてその道の者が聴けば驚きで目を丸くするほどの、いい音と圧倒的な技巧。



稲荷崎の美爆音に染められかけていた会場を、少しずつ取り戻していく、たった３つの弦楽器。



海を渡る鴎に相応しい、海の男の音が響き渡る。





「WOW! Nice support!!」





鴎台の監督が嬉しそうに言った。


３試合目の疲労も続き、準々決勝で合間見えた圧倒的アウェー感漂う第３コート。



そんな最中に聞こえてくる、綺麗で、そして情熱的な弦楽器の音。体育館ではあまり聞かない音。



それでも自然に耳に入り、あの美爆音をかき消してくれる音。





「…………Aちゃんだ。」


「うわ、A張り切ってんな。」





昼神と星海が嬉しそうに客席を見て呟く。





「僕は、音楽に素養がある訳ではないけれど、これならわかる。」





ふと監督が呟いて、チームの視線が監督に集まる。





「向こうの管楽器は素晴らしいね。分かってはいても、拭えないこのAWAY感。
けれどあの弦楽三重奏は、“あの応援に勝つ”と言うより“応援の邪魔をする”音。選手を鼓舞する応援というものを、ただの街中で流れている雑多な“ＢＧＭ”にするための音。


ただ演奏するだけじゃない。素晴らしい応援団達だ。」





さて、君たち。これで僕たちに遅れをとる理由はないよ。




鴎台の全員が、大きく頷いた。

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