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その後戻ってきた円堂に聞いたところ、理事長は目を覚ましていないらしい。フットボールフロンティア本戦前というタイミングでの事故にどこかきな臭さは感じるものの、鬼瓦刑事曰く、影山は手が出せない状態のはずだという。
練習後、いつものように夕香の病室にやって来た豪炎寺とAは、一言も言葉を交わすことなくただそこに佇んでいた。
｢……｣
難しい表情をする豪炎寺を横目で見てから、眠り続ける夕香に視線を移す。
豪炎寺は、理事長の事故に妹である夕香の事故を重ねているようだ。身近な存在(片や身内)が何度も事故に遭ったことへの感情は、本人にしか分かるまい。
｢A｣
｢なあに、修也｣
ぽつりと普段より随分小さな声で名前を呼ばれ、首を傾ける。
｢おまえも事故には気をつけろ｣
｢……うん｣
｢そばにいる間は、俺が守る｣
Aに対して言っているというよりは、まるで自分自身に誓いを立てているような声だった。
……自己犠牲は、なるべくやめてほしいのだけれど。そう言ったところで、聞き入れてくれやしないだろう。豪炎寺は存外頑固なのだ。
｢守ってくれるの｣
｢当たり前だろ｣
｢そっかぁ｣
黒曜石の眸に真っ直ぐ見つめられると、まるで自分が豪炎寺にとって無二の存在であるような気がしてくる。擽ったくて、暖かくて、小躍りしてしまいそうだ。
｢えへへ｣
｢何にやけてるんだ｣
｢修也、かっこいいね。王子様みたい｣
｢……俺は真剣に話してるんだ｣
物申しながらもそっぽを向いて顔を見せなくなってしまったので、おそらく照れたのだろう。Aよりも幾分広い背中に、ぎゅうと抱きついた。
｢ありがとう、だいすき｣
｢……｣
突き放されるかと思ったが、お腹の前に回した手にそっと彼のそれが添えられる。ああ、なんてかっこよくて健気で可愛らしいのだ、この幼なじみは。クソデカ感情を抑えられずにもう一度｢だいすき！｣と叫ぶと病室では静かにしろと一蹴された。
……寄り添う身体と繋がれた手は、お互いの体温を確かめ合うように離れることは無かった。
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作者名：おひめ | 作成日時：2022年9月24日 12時
