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Aが豪炎寺を見送り、ベンチに戻って一息ついていると、ゴール前にいた円堂がこちらに駆け寄ってきた。輝く笑顔と人懐っこさを発揮する彼に子犬のしっぽが見えた気がして、Aはくすりと微笑む。
｢A！ 必殺シュートを打ってくれないか？｣
｢必殺シュートを？｣
｢ああ、"ゴッドハンド"を完璧にマスターしたいんだ！｣
"ゴッドハンド"は、帝国との練習試合で"デスゾーン"を止めた特訓ノートの技だ。成功した時の感覚を忘れないうちに物にしたいのだろう。
Aは快く頷き立ち上がった。
｢いつもみたいに威力調節しながら何回か打つね｣
｢頼む！｣
円堂が蹴ったボールを足で受け止め、Aは正面を見据える。彼の顔つきが昨日までとは全く違い、必殺技のため集中力を高める前に、つい頬が緩んでしまった。
｢ふふ｣
｢どうしたんだ？｣
｢頼もしくなったね、円堂｣
｢え、そうか？｣
｢うん。キーパーらしくなった、って言えばいいのかな。きっと練習試合の成果だよ｣
まるで子を見守る母のような暖かい眼差しに、円堂は照れ臭そうに頬を掻く。
彼の様子を他所にAは静かに目を閉じた。夕方特有の涼し気な風が二人の間を吹き抜ける。彼女が次にその双眸を開いた時には、風丸が気高い水龍と喩えた雰囲気を纏っていた。
先程まで騒がしくボールが飛び交っていたグラウンドが静まり返る。誰もがAの放つプレッシャーに呑まれていた。
｢いくよ｣
｢来い！｣
重力を感じさせないほど軽やかにAが跳び、背後に月の幻影が浮かび上がる。器用に空中で一回転した彼女は、
｢"
帝国学園の選手や豪炎寺のように叫んだ訳でもない。必殺技とは思えないほどに穏やかで慈愛を宿した声だったが、静かなフィールドにはよく響く。柔らかな風を纏うシュートが、円堂に向かった。嵐とまでは言えない速さの風。これが所謂Aがしている必殺技の威力調節だろう。
｢"ゴッドハンド"！｣
自分が放ったシュートが円堂に受け止められたのを見届けて、Aはふわりと地面に降り立った。ついに一度も敵わなかった彼女のシュートをしっかり止めた円堂がはしゃぐのを見て、やさしく微笑む。
天使のようだと、誰かが呟いた。
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作者名：おひめ | 作成日時：2022年7月14日 17時
