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その日学校から帰ると、豪炎寺が外出の準備をしていた。
｢あ、ダンボール無くなってる｣
｢片付けたんだ｣
｢病院に行くの？｣
｢ああ、お前も来るか｣
｢うん｣
病院の近くに引っ越したおかげで、毎日妹のお見舞いに行けると豪炎寺は笑う。去年、妹の夕香の事故があってからあまり元気はないが、今のような小さな微笑みすら浮かべることのなかったときに比べれば、まだマシな方だ。
｢いつもと道が違うから迷っちゃうかも｣
｢お前はいつもと同じ道でも迷うからな。今日はどうやって学校に行ったんだ？｣
｢同じ制服のひとについて行った｣
｢…………はぐれるなよ｣
｢はーい｣
ちゃんと返事をしたのに手を繋がれた。わたしの方向感覚はそんなに信用ならないか、と頬を膨らませるAの頭を宥めるように撫でる豪炎寺の姿は、まさにおにいちゃんだ。
｢修也って面倒見がいいよね｣
｢昔からお前の世話を焼いているから慣れた｣
｢わたし世話焼かれてるの？夕香じゃなくて？｣
｢自覚がないのか。お前より夕香の方がしっかりしているだろ｣
Aは考え方や性格がときに驚くほど大人びている。10年程度の付き合いであるが、誰かに怒りをぶつけているところなど一度も見たことがないし、親や教師といった大人に叱られているところも見たことがない(Aの両親はそもそも彼女を甘やかしているが)。
誰かにちょっかいをかけられても困った坊やだと言わんばかりに苦笑しているだけだった。
常に穏やかで、彼女の周囲はいつだってほんわかとしている。それなのに、行動や性質はなぜか幼く不器用な部分が多い。
料理をさせれば怪我をしながらダークマターを生み出し、方向音痴ですぐに逸れてはこちらを焦らせ、大人びているくせに警戒心は欠片もない世間知らず。
ちぐはぐで、危なっかしくて。こんなに放っておけない子はそういないだろう。
｢行くぞ｣
｢うん｣
さっきまで拗ねていたのはどこへやら。にこにこ笑って横に並ぶAの手を優しく引いて、家を出た。
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作者名：おひめ | 作成日時：2022年7月14日 17時
