29. ページ30
.
Aは身体が震えた。寒いからではない。あまりにも一方的で暴力的な帝国学園のサッカーに、明確な恐怖心を覚えたのである。ひとり、またひとりと雷門の選手は倒れて行った。
どうしよう、彼らが深刻な怪我でもしていたら。どうしよう、彼らがこの試合のせいで身体だけでなく心に深い傷を負ってしまったら。
｢A、手が傷ついちゃうわ｣
｢……ごめん、ありがとう｣
無意識のうちに手を握りこんでいたらしく、隣に座っていた秋がそっとAの指を解く。掌にはくっきりと爪の跡がついてしまっていた。これが見つかれば心配症な幼なじみに叱られてしまうと、試合とは全く関係のないことを考える。そうでもしなければやりきれない思いだった。
帝国学園の彼らは、先程予測したように人を傷つけようとも何も思わない化け物だと軽蔑さえした。
帝国キャプテンの鬼道は、後半が始まった直後｢引きずり出せ｣と言っていた。何が引きずり出せだ。何を引きずり出したいのだ。
焦りだけが募っていく。こんなに酷い試合、見たことがない。傷ついていく選手たちを見ていられず思わずベンチから立ち上がりかけた時には、円堂からも風丸からも、半田からも染岡からもこちらに来るなと言われた。彼らはAに無茶をするなと叱ってくるくせに、Aよりもサッカーができないくせに、彼女よりもよほど無謀で意地っ張りで勇敢だった。
｢……やだ！ もうこんなの嫌だぁぁ！｣
目金が背番号10のユニフォームを脱ぎ捨てて逃げていく。雷門はついに十人になってしまった。残った十人も、帝国の猛攻で力尽きている。
｢まだ……終わってねーぞ！｣
円堂が立ち上がった。いつもならその意気だと笑っているところだが、そんな無責任なことはもう言っていられない。
Aは先程から手を繋いでくれていた秋に礼を言い、そっと手を離すと、芝生に放置されたユニフォームを取りに行く。
｢……｣
ずっと幼なじみが背負ってきた10番。ずっとその背中を見て生きてきた10番。Aは膝をついてユニフォームを握り締める。
どうすればいい。一体どうすれば。
｢！？｣
血の気がなくなった手に、見慣れたそれが重ねられた。反射的に顔を上げると、目の前には何かを決意したような幼なじみの表情。
｢……修也？｣
｢A、見ていてくれ｣
それ以上の言葉はいらなかった。
伝説の
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 137人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：おひめ | 作成日時：2022年7月14日 17時
