脱力カバディ【灼カバ】 (ページ3)

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自室で好きな配信者の配信を聞いていると、こんこんとドアが鳴った。
パソコンの電源を切り、しぶしぶといった感じでドアノブに手をかけ、ゆっくりとドアを開けると、前に立っていたのは赤縁の眼鏡をかけた男だった。

「え…だ、誰ですか……」

その問に、彼は「井浦慶っていうんだけど」と答えると、

「雨宮Aさんだよね？」

と言った。

「あ、はい。そうですね…」

「実は、部活の勧誘できたんだけど」

「ぶ、部活ですか？私に？」

井浦は以前として笑みを浮かべている。
特に勧誘される才など持っていないAに唯一ありえるのは、ボクシングくらいだが、生憎この学校に女子ボクシング部は存在しない。

「うん、と言ってもマネージャーなんだけどね」

「え、マネージャー…ですか？」

男はうんと頷いた。

「王城正人って分かる？」

「え…あ、ああ！カバディ部、ですか！？」

その瞬間、頭の中で記憶の洪水が駆け巡った。
偶然カバディを思い出せた訳だが、その王城正人と大きな接点を持っているわけではない。
しかしAの父と彼の父親が友人のようで、父親からよく話を聞いていた。
そうだ。そういえば彼はカバディ部を設立したらしい。

「そう。正人がさ、君ならマネージャーをやってくれるはずって言ったから」

え、やらないが。
どうやらその王城正人は盛大な勘違いをしているみたいだな。
念の為もう一度言うが、彼とは1度も会ったことがない。

「えっと…ご、ごめんなさい…」

断りを入れてドアを閉めようとすると、

「まあ待ってよ」

と言って足を挟んできた。セールスマンかよ。
流石に挟んできた足をそのままにして無理矢理ドアを閉めるようなことはしないので、仕方無しに話を聞いてあげることにした。

井浦によると、やはりカバディ部は部員が少なく、マネージャーもいないらしい。
部員が少ないのならマネージャーも必要ないのではと思ってしまったが、Aは口を噤んだ。

ふむ、要するに彼は同情を買わせようとしているのか。
しかし買うわけもなく、無理だと言うと、

「そう…ならせめて、正人に会ってくれない？」

ふむ。これはつまり、入部は諦めてくれたということでいいのだろうか。
しかし、なぜ王城正人はそんなことを？
いや、ここで聞くのは薮蛇にしかならないか。

「…分かりました、明日でいいですか？」