消えた自転車は知っている

19話 ページ20

若武って、こんな天使にもいやがらせなんてするんだ…。

そんな若武を見て天使はとても怒っていた。
私は、そんな天使もかわいいと思ってしまった。

黒木クンは怒っている天使を見てなぐさめながら上杉クンと小塚クンとこれは仕方ないと言われまるく納められていた。

この状況に私は耐えられなくて若武をにらんだ。
すると若武は、ひとりひとりに視線をくばってから、おもむろに口をひらいた。

「大事件だ。」

私は、思わずズッコケそうになってしまった。
さっき上杉クンが、若武のことを気取り屋って言ったけれど、ああ、しみじみと理解できる気がする。
黒木クンが、ふっと笑って口をひらいた。

「秀明の前でネズミでも死んでいたのか。」

「いいや。」

そう言ったのは、上杉クンだった。

「誰かが階段から落ちて、鼻の頭でもすりむいたのさ。」

ふたりは顔を見合わせ、それからクッと笑いだした。
若武はもちろん、火がついたように怒ってどなった。

「オレのチャリが盗まれたんだっ！」

ふたりは一瞬、笑いを消し、真剣な表情になった。天使はムッとしていた。

とたんに小塚クンが、身をのり出すようにして言ったのだ。

「若武、乗ってきてたのか。勇気あるよなあ。どうやって親を説得したのか教えてくれよ。オレもチャリ通にしたい。」

若武は、完全に頭に血がのぼってしまったらしくて、ツカツカと小塚クンの前まで歩みよると、その手から星座早見盤を取りあげ、フリスビーみたいにポーンと教室の後ろにほうり投げた。

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