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車の中




「…よかったんかね。」



『いいの。』



ぎっしり詰まった車の中、新しいアパートに向かう。



全部過去は置いていきたい。過去のことにしたい。そんなわがままを苦い顔で受け取ってくれた彼は世界一優しくて。対照的に私は世界一わがままだ。



「深澤くんに迷惑かけんなよ。」



『なに?心配してくれてんの?』



「お前は危なっかしいの。」



北斗はいつだって優しい。



「…次こそ幸せになりなよ。」



『私はもう幸せ者だよ。』



気にかけてくれる北斗と、いつも笑わせてくれる田中くんと、仕事先を紹介してくれた宮舘さんと、無理言ったのに笑って受け入れてくれた深澤さんと、誰よりも優しいジェシーくんに出会えたんだから。



新しいアパートについて荷物を下ろす。



全て運び終わると、



「家電買いに行くなら言って?車出す。うちに置いてる荷物はまた明日持ってくるよ。」



『ありがと、ごめんね、至れり尽くせりで。』



今に始まったことじゃねぇよ。と北斗は笑った。



「そういや、樹がお前んちで飲みたいんだとさ。」



『樹くんが?』



尻尾を振って目をキラキラさせてる姿を想像した。



いいよ、みんなであつまろ?と返事をした。



今日から、また1から始まる。



北斗を見送って、衣装ケースと段ボールが乱雑に置かれた部屋でいつもよりぐっすり寝れた気がする。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
1週間後





「Aちゃん、今日からよろしくねぇ。」



物腰柔らかい深澤さんのお店にやってきた。



『こちらこそ、無理言ってすみません。』



「いやあ、がちで従業員俺だけで死にかけてたから助かるわ。」



『いえいえ、そんな、』



小さなお店。雑貨で溢れてるけどなぜか統一感を感じる。



暖かくてとてもいいお店。



「北斗から色々話聞いた。今日からまた新しい気持ちでがんばろ? 」



『がんばります!深澤さんは、』



「かったいかったい!!カチカチじゃん!ふっかでいいよ!」



『あ、じゃあ、ふっかさんで、って何聞くか忘れちゃいました。』



「えー、気になんじゃん、、、」



うん、これからの日々、本当に楽しくなりそう。
1週間前の出来事が遠い昔の話に思えた。

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作者名:エリンギ | 作成日時:2020年7月28日 17時

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