111話 ページ15
海堂先輩の恋心を自覚したあの日から5年の月日が経った。自覚したけどもあれ以上の発展はなく、一緒の店でパティシエールをやっていることぐらいしか接点がなかった。
その間にも、樫野といちごちゃんは付き合ったし、安堂くんはブランシュさんという人と付き合いしてたし、花房くんは何か国の女王様といい感じらしいし。
みんな誰かしらの相手がいる。それが羨ましかった。それを愚痴ってたらルミさんに『Aちゃんには海堂先輩がおるやろー!』って言われたけども……。
私達そんな関係じゃないんだよなぁ‥‥ただの同期なんだよ……私も麻里みたいな美人だったらもっと堂々とアピール出来たんだろうな。海堂先輩に……と思っていると、
「今日、用事があるの」
「へ?用事?」
突然ミルクがそう言った。急にどうした?用事とか……。
「アマンドっとその……デートを……」
「ああ、そう、いって来たら?」
アマンドというのは海堂先輩のパートナーのことだ。ミルクは前々からアマンドに密かに恋心を持っていたらしく、密かにアマンドの写真を取ってため息をついていた。
そんな関係がいじらしくなったので私は海堂先輩に相談して、二人のことをくっつけようとして……見事成功した。お互い宮廷パティシエということもあり、お似合いだ、という声も少なくはなく、祝福はされているのを見かけた。あのときのミルクの顔はとても晴れやかで可愛らしかった。
ただ、ずっと惚気られるのはうざいけども。
「Aも早く海堂さんと付き合えばいいのに‥‥」
ミルクはそう言いながら飛んでゆく。全く…人の気も知らないでそんなこと言わないでくれ。私だって付き合えるものなら……。
「今更だよね」
そう言いながら私はため息を吐く。だって本当に今更だ。海堂先輩に恋をしたあの日から私は何にも進んでいない。もう5年も経っているのに。周りはもうカップルや結婚している人もいるのに。
莉緒も兄貴も付き合っていたり、結婚しているのに。『Aはいつ結婚するの?』って言われるのに。でも、私は何も前に進めていない。店のことで手一杯だ。それに私は売れ残りという奴だ。こんな私、誰も貰ってくれない。
それは勿論悪いことだと思う。でも、私は……
ピンポーン。
と、思っていると、チャイムの音が聞こえた。誰だろう?と思いながら扉を開けると……
「え?」
そこには息を弾ませ、慌てた海堂先輩がいた。
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作者名:かんな x他1人 | 作成日時:2020年8月2日 22時