鬼が好きな少女は。弐

漆拾陸 ページ26

どんなに足掻いても、逃げても、来ないでと叫んでも、朝はやってくる。



「…ん……もう…朝。」



周りを見渡すが無惨さんは居ない。
ポツンと私が布団を敷いて寝ているだけ。


胸がキュッと痛む。


ゆっくり布団から出て、湯呑みに井戸水を入れ、飲む。




髪をクシでときながら、紐で髪の毛を結う。
もう、無惨さんと会わないまま何日経ったのだろう。


数えていけばいくほど胸が痛み、20日程で数えるのをやめてしまった。




「……今日も一日出来るだけ人が死にませんように。」


神棚に手を合わせ祈ったあと、

ご飯を炊いて朝ご飯を作っていく。



「よォ、死んでねェかァ？」


玄関から声が聞こえ、私はご飯を炊く釜から離れ、縁側に出た。


「不死川さん。おはようございます。」

「はよォ、死んでいねェみてェだな。」



今日は不死川さんのようだ。朝の見回り。

いつも、朝と夜は私がここの家にちゃんといるかどうか、柱の皆さんが確認しに来る。
きっと逃げたら問題になるのだろう。


「死にませんよ。というより、ダラダラし過ぎてこんな生活いつまでも続けていいのかっていうぐらいです。」


「髪…伸びたなァ。」

「あ、え？そうですか？」


「……辛いか。」

「え…」
そう言われた時心臓がドクンッと跳ねた。


「あの糞野郎と会えないのがそんなにつれェのか？」

「あぁ！そろそろ釜から離れていると、米が焦げてしまうので！！失礼致します！」


私は急いで不死川さんから離れて、台所に向かった。





「っ……。」


釜にたどり着くと、ドッと疲れが出る。


「…無惨さんっ……無惨さん……。」



涙がボロボロ溢れ出て止まらなくなる。

【あの糞野郎と会えないのがそんなにつれェのか？】


……辛いに決まっている。
好きなんだって気づいたのに……気づいた時にはもう遅かったんだから。


気づいてからが辛い。
こんなの気づかない方が良かった。知らないふりをして、逃げていれば良かったのだ。

そもそも、私が鬼殺隊と会わなければ……




無惨さんと会わなければ……



「っうぅ……こんなっ……辛いことにはならなかったっ……！！」



戻りたい。もどりたい。


無惨さん。
無惨さん。



無惨さん……。


あれ、なんでそもそも私、ここに居るの。


すぐに鳴女さんを呼んで会えばよかったのに。

馬鹿ね。馬鹿だ。




「助けて…な…」


「あァ、俺がァ……助けてやる。」

被せるように彼が言った。

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