ただ、君だけ。〈番外編〉(ymin)

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それから更に１週間が経ったころ。
ベッドに入って、いつものように眠る伊野尾ちゃんに愛を囁いて。
背中を向けようとしたら、くい、と引っ張られる感覚。


「えっ……」
「やまちゃん、本当にそう想ってる……？」


伊野尾ちゃんが、起きてた。
その瞳には、涙がうっすらと浮かんでる。


「え、伊野尾ちゃ……」
「なんで、触ってくれないの……？」


突然の言葉に、驚いて目線がうろうろしてしまう。
何て答えればいいのか。
最後には、目をそらしてしまった。
すると、聞こえた伊野尾ちゃんの震えた声。


「おれが……きたない、から……？」


聞いた瞬間に、頭に血が昇る。
いくら伊野尾ちゃん自身でも、そんなこと言わせない。


「ッなわけねーだろ！！」
「じゃあなんで！？
なんでおれに、何もしないの……！？」


かけていた毛布を勢いよく剥いで飛び起きて、思わず声を荒げた。
すると伊野尾ちゃんも起き上がって強く言い返してくる。
うっすらと浮かんでたはずの涙が溢れ始めて、伊野尾ちゃんの頬を伝った。


「分かってるよあんな、あんな風に、おそ、襲われて、それで、キスとか、されたし、身体も、未遂でも、さわられ、ちゃったし……！
きたない、かもしれない、けど、でもおれ、待ってる、待ってた、のに……やまちゃん、キスだって、してくれない……！
ただ、頭撫でるだけで、こどもみたいに、あやされて……。
いつも、寝てるとき、気付いてるんだよ、あいしてるって、キス、しようとしてくれるのに、そのまま、背中向けて、寝ちゃうし、だから、やまちゃんは、気持ち悪いんでしょ、おれなんか、おれなんか……」


伊野尾ちゃんの問いに、求めていることに素直に答えてもいいのか、正直迷ってた。
触れれば恐怖を思い出させるかもしれない。
伊野尾ちゃんが、イヤなんじゃないかって。
キスもその先も、伊野尾ちゃんには愛し合うための行為じゃないかもしれないって。


でも、こんな伊野尾ちゃんを見たら、答えないわけにはいかない。
また泣かせてしまうなんて。
泣かせないと決めたのに。
笑顔を守ると決めたのに。
怖いって素直に言うのは、ダサいけど。
でも、こんな風に泣かせるのはもっとダサすぎんだろ。

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