本能(ymin)

＊ ページ35

「ん、ッ、！」
「ッ……！」


カリ、と小さくそこに歯を立てれば、やまだの声に艶っぽさが混じる。
それがうれしくて、ちゅう、と強く吸い付いて、痕を残した。
たぶんメイクさんに怒られるだろうし、隠すの大変だろうけど、でも、今日ぐらい。


「っ……こら、伊野尾ちゃ……えっ？」
「わ、ッ……え、へへ……」


やまだも、満更でもないような口調だけど、ダメだよ、と言うようにおれの頭に手を乗せようとして。
その、頭の上の違和感に驚きの声を上げた。
バッとふり向いて両肩を持たれて、少しだけ距離を開けられる。
おれのこと、正面から見るため。
電気を消して折角真っ暗にしたのに、枕元のスタンドライトをやまだがつけたせいで、全部見られた。


「ねこ、みみ、じゃん……？」
「う、ん、ねこみみ……」
「それに……なんか、すげぇ……」
「な、に……？」
「あの……エ、ロいんですが……」


そう、やまだに言われるくらいの、おれの、カッコ。
やまだが唆るって言ってたから、あの日みたいな髪型で作る技量は無いからカチューシャの猫耳をつけて。
吸血鬼といえば、やっぱ黒かな、と思って。
ちょっと大きめの黒いニットの、長いヤツ……ワン、ピース、っていうか、うん、だって、やまだ、脚、好きじゃん。
人生２回目、お風呂場で、剃ったし。
それに、これから、その、脱ぐことになるんだし……下は、穿いてない……。


それと、あと、もうひとつ。


「あの、伊野尾ちゃん……それは……？」
「か、カラコン……なんだよね」


こちらも……人生、２回目。
やまだが、相手の身体を熱くしたい時に、紅く変わる瞳。
やまだは自分で変えられるけど、おれはムリだもん。
だから、代わりに紅いカラコンをつけた。


「なん、で？」
「ハロウィン、だから……。
吸血鬼の、コスプレ、の、つもり？」
「お、おぉ……？」


びっくりしてるやまだの力が抜けてる。
だから、いつもとは逆に優しく押したら、倒れてくれた。
やまだの上、腰のあたりに跨って、手をやまだの顔の両側に置いて、唇にキスを落とす。


「ん、」
「っ、紅い瞳の意味、分かってる、でしょ？
いつも、おればかりだから。
やまだも……熱く、なってよ……」
「は……はは、やべ……」

＊→←＊

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す