本能(ymin)

＊ ページ4

「あれ、傷が……？」
「あ、それ俺の能力なの。
吸血鬼の唾液には治癒力があって、伊野尾ちゃんが貧血で気絶してる間に治しておいた」
「そ、そうなんだ……」
「うん、伝承みたいな吸血鬼とは違って、日光も十字架もニンニクとかも平気なんだ。
いざという時はさっき知念が俺を止めたように殴ってくれれば大丈夫。
だから、仕事には支障ないから、伊野尾ちゃんお願いです」


再び、山田が俺に頭を下げた。


「知念と伊野尾ちゃん以外、俺のことを知ってる人はいない。
俺はこの仕事を続けたい。
伊野尾ちゃんと、メンバーと一緒に。
だから、秘密にしてください。
俺みたいな化物なんかと、働くなんて嫌かもしれないけど、でも俺、この仕事が好きだから、だから……！」


山田がこの先アイドルとして活動出来るかは俺に懸かっているんだ。
だったら、答えは決まってる。


「大丈夫、内緒にする。
だから、安心してやまだ」
「伊野尾ちゃん……！！」
「でも１個だけ条件」
「えっ！？」
「自分のこと化物なんかとか言うのはもう無しね。
やまだは、大切なメンバーだから」


ね、と微笑めば、山田が立ち上がって俺を思い切り抱き締めた。
ありがとう、という山田の声が震えていて、俺もそっと山田を抱き締め返した。


「ちょっと、涼介調子のんな。
いのちゃんから離れろ！
いのちゃんも、甘やかしちゃダメだからね！」
「ふふ、はいはい」


しばらくそうしてると、知念が拗ねたように言うから、思わず笑ってしまった。
手を離せば、山田も離れていった。


「やー、でもよかった！
僕だけじゃ涼介の渇きについてけないもん。
これでいのちゃんも涼介に血をあげるの決定だね！」
「えっっ！？」
「あ、伊野尾ちゃん、それも宜しくお願いします。
伊野尾ちゃんの血めっちゃ美味かった」
「ッッ……！？」


最後の言葉に一気に顔が赤くなった。
美味かったとか、なんなの…！！


「ほんと、調子にのんなやまだ！」
「ほら、そろそろロケ行かなきゃ。
かなり遅らせて貰ってるんだからね、涼介のせいで！」
「元はといえば知念が遅刻……」
「何？」
「はりきって行きましょう！！！」


大ちゃんばりのテンションで楽屋を飛び出す山田、追う知念。
ふたりを見ながら、また手を首筋にやった。
熱くなる感覚がよみがえって、鼓動が早まり頬も熱くなる。
もう、忘れられない感覚。
そういえば、山田の紅い瞳のこと、聞けなかったななんて思いながら、俺も楽屋を後にした。






END.

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