本能(ymin)

＊ ページ29

やまだと知念のやり取りに、笑いが溢れる。
こんな風にまた笑えて本当によかった。


暫くして、知念が先に帰った。


『僕のお財布置いていくから後はそこから出してね！』
『おいそれ俺のことだろ！』


っていう会話を残して。
思わずまた笑っちゃったよ。




残されたおれとやまだ。


２人きりになってちょっとの沈黙。
先に口を開いたのはやまだの方だった。


「……ねぇ伊野尾ちゃん……お腹空いちゃった」
「えっ、こ、ここで！？」
「うん……欲しい……」
「っ、ぁ、」


隣同士だから逃げ場なんてない。
やまだを見たら、その瞳が紅く輝くのが一瞬見えた。
途端に、背中にぞくぞくとした感覚が走って、身体が熱くなって。


「伊野尾ちゃん、いただくね？」
「う、ん……っあ！」


少し、咬みやすいように首を傾けた。
そこに、やまだの鋭い牙が食い込んで。
鈍い痛みと、でも、痺れて熱くて堪らなくて。


「ひゃ、んぁ、は、ぁう……」
「ん……やっぱ、美味すぎる……ッ」


ズジュ、ジュル、という音が耳元に響く。
だんだんと力が入らなくなって。
ボーッとして。


「あ、はぁ、は、ぅ、」
「……ごちそうさま」


囁きと共に、首筋をやまだの舌が這う。
傷は消えていくけど、熱さは全然収まらなくて。
吸われた首筋を手で押さえながらやまだを見つめた。


「……やま、だ……」
「うん、帰ろうか。
伊野尾ちゃんの血だけじゃなくて……」


ぜんぶ、食べたくなっちゃった。


そう、囁いて。
やまだが、自分の唇を、舌でなぞって。
こんなの見ちゃったら、もうダメだよね。
もう、熱くてどうにかなっちゃいそう。


なのに、やまだはおれに、１つキスを落としてから、冷静に、個室から少し顔を出してスマートにお会計とかしちゃって。


だからね、やまだが戻ってきて、まだ立てないおれを支えてくれた時、耳元に囁いてやった。




「ねぇ……？
おれも、やまだが欲しくなっちゃった……。


はやく、やまだに食べられたい」




そしたら、やまだの瞳がまた紅く輝きだした。


腰を支えてくれる手の力が、少し強くなって。


完全に、火をつけちゃったみたい。


まぁ、いいよね。


恋人として、触れ合いたいのは同じだもん。


早くお家に着くといい。


そしたら。


理性なんかぶっ飛ばして。


本能のまま、互いを求めるんだ。









FIN...

▽あとがき→←＊

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す