本能(ymin)

＊ ページ18

「あ、ねぇやまだ、今日は……」
「ごめん、ムリなんだ」
「え……な、何か、用事とか……」
「いや、そうじゃないけど……ごめん」


そう言ってさっさと帰るやまだ。
また、断られた。
理由もなく。
そろそろ、おれも限界だよ。


おれはただ、２人でゆっくり話とかしたくて。
あれから何回も誘った。
おれの家でもやまだの家でもいいから、ただ、一緒に過ごしたくて。
でも、その度に断られた。
血を吸いたいと言われた時だけ、２人きりになるくらいで。
それ以外では触れることもしなくなった。


これじゃ、ただの食料だよ。
なんでなの？
特別だとか言って。
可愛いねって言ったりとか。
頭撫でたり微笑んだり。
それにあんな、キスとかしといて。
やまだのせいなんだよ。
やまだが、そんなことするから。
気付いちゃったのに。


おれ、やまだのこと好きだって。


ねぇ、なんで？
どうして…………。




「伊野尾ちゃん」


次の日に、呼び止めたのはやまだの方。
どうせ、また血が欲しいんだ。
そういえば頻度少し増えた。
おれが倒れた時までと比べると、吸う量は減ったけど。
……まぁ、どうでもいいか。


「うん、分かった」
「ごめんね」


連れ立って楽屋を出て、２人になるために空いてる小部屋に入って、鍵を閉めて。
吸われる前はかなり緊張する。
そっと、やまだがおれの首筋に触れた。
首を少し傾ければ、やまだの牙が鋭く光って。


「は、あぅッ……！！」


いたい。
いたいよ。
いつもより、強い。
それに、じわじわと熱い。


「やま、あ……！」
「ッ……く……！」


じゅるッ……！


音が鳴るくらい、こんな、なんで。
やばい、こんなの。
身体に力がはいらない。
ずり落ちそうなのを、やまだに抱きついて必死に堪えて。
やまだの顔が見たくて、痛みに反射的に閉じた目を、薄く開いた。
でもここからじゃ見えない。

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